電車は走る、まるで人の運命のごとく

 再会のとき、別れのとき 
翌日  


晴天。朝日と共に広がる青空、ラジオ体操から帰ってくる子供達。テンカワ家でもラジオ体操の音楽が流れていた。

テレビに映る人のまねをしながらぎこちなく体操をする妖精3人組。アキトは朝食を製作中である。
ラジオから流れる声にあわせて腕をまわしたりジャンプそして居る。最後ではへばってしまい座る3人。
第二体操に入る前に3人は体操を終わりにした。

その3人の近くのテーブルの上に並べられる朝食。ピザトーストに牛乳。
そのにおいは3人の食欲を誘うには十分なものであった。

「おいしそうだね。」「「うん。」」「さあ、食べるよ。」「はーい。」
イスに座る4人。「「「「頂きます。」」」」むしゃむしゃと食べる4人。静かな沈黙。

「今日は俺は出かけるからここで待っていてくれ。それに、明日でお別れだ。だから今日の夕食はパーティーにするぞ。」

いきなりのアキトの言葉に驚くパールとヒスイ。
「お別れってドウイウコトですか!!!ずっと一緒に居られないんですか??」
「そうだよ。お別れなんていやだよ。」

「確かに別れはつらい。けれどもお前達の身柄は本来はネルガルの方にある。だから、帰らなければならないんだ。
だからこそ、今日は楽しんで笑ってお別れをしような。」

そう言うとアキトは優しく2人の髪をなでてあげる。
「うん。分かった。」と、ヒスイ。パールは唯視線を下に落として頷くのであった。

朝食が終わるとアキトは自室に戻る。たった4日間しか居なかった部屋なのだがその室内は人の営みが感じられるようになっていた。
アキトはナノマシンが入っている黒のブレスレッドをして、側面についたボタンを押す。
するとアキトの体には防刃、防弾の戦闘服が形成される。

アキトは肩にホルスターをかけ、愛銃であるリボルバーを収納する。更に腰には弾丸を装着して、その中には弾丸を入れる。
ジャンプフィールド発生装置は戦闘服に収納してアキトはマントを羽織、黒のサングラスをバイザーへとかえる。
完全なお出かけスタイルである。それが終わるとアキトは早速家を出た。


アキトは戦闘服に着替えるとさっさと出て行った。私の前では少しくらい顔をした2人が居る。

「ねえ、今日はお別れのパーティーをするんだからお買い物に行こうよ。」
「ラピスはいいよね、アキトと一緒に居られるんだから。」と、ヒスイ
「そんな。」
「私たちを見て本当はうれしいんですよね。」と、パール
「そんなこと無いよ!!」
2人の下げすんだ言葉に絶句してしまうラピス。

「そんなこと言って私たちを慰めようとしているなんておかしいよ!!!」
ヒスイの言葉は容赦なく私の心に突き刺さる。
「そんなこと無いよ。そんなこと・・・・うわああああああん」

ついに泣き始めて意しまった私、そんな風に思われていた打なんて思っていなかったから私にとってはかなりの衝撃だった。
今まで仲良くしていた2人にそんなことを言われるだなんて。
そんなことも手伝って涙はもっとあふれてくる。鼻水も出てきて近くにあったティッシュを取って鼻をかむ。

そんな私に2人が近づいてきた。
「その・・・・・ラピス、ごめんなさい。」
「ごめん。」
パールとヒスイの言葉に驚くラピス。そのラピスを無視して2人は更に続ける。

「今までラピスだけアキトのそばに居られるから私は嫉妬していたの。
それで、またラピスだけそばに残して私たちは又戻るのかと思って今までのがたまってラピスにあたったの。ごめんなさい。」
「ごめん。」

私はそのことを聞いていて、自分がその立場だったらどうだろうかと考えた。私の心はアキトで埋められている。
それでアキトを失ったらどうなるだろう。そしたら私はアキトを独り占めしている人に対して嫉妬するだろう。

2人も私と同じ気持ちになるだろう。そんなことを思うとますます涙があふれてくる。
いつのまにかパールとヒスイも泣いてしまって私たちは一緒に抱き合った。
「ごねんね、パール、ヒスイ。」
「いいよ、もう」
「本当にいいんです。」私たちはそのまま泣き続けた。


家を出てガレージに収納された黒塗りのバイクに乗る。五感を失い、ラピスとのリンクに助けられ、初めてバイクに乗った時の風を
切って走る感覚、それはとても俺にとって心地の良いものだ。キーを差込、エンジンを始動させる。
エンジンをふかせる事によって高まる緊張感。アキトはバイクを駆ってチチブシティーの墓場に向かった。


黒の喪服に着替える私。鏡にはそんな私の姿が映っている。白い肌、以前より膨らんだ乳房。
きれいになった脚線。今の私ならばあの人も振り返ってくれるかもしれない。そんな考えが浮かんできてしまう。

アキトさんにはユリカさんが居るのに・・・喪服を着終わると靴を穿く。
最後に少し乱れた髪の毛を溶かしていつもとは違う黒の髪留めで髪をツインテールにすると時計を見る。
「ミナトさんとの待ち合わせ時間には間に合いそうですね。」
財布などをポケットに入れるルリ。
「行ってきます。」


エンジンのうなりが静まり、アキトはバイクから降り立った。場所は目的地である墓場の近くの貸し駐車場だ。
アキトはお金を払うとさっさと墓に向かった。そう、偽りのイネスフレサンジュの墓に・・・

その後から2人の女性が現れた。
「ここですね。ミナトさん。」
「そうね、ルリルリ。ここよ。」
石段を登る港、不意にルリは立ち止まった。
「どうしたの?」
「ハーリーくん、月に跳んだ頃です。」
「だからお見送りしてあげなって言ったのに。」
「三度目はいやです。」
「え?」
「非科学的ですが、ゲンかつぎです。」
「意地っ張り。」そう言ってミナトは微笑むのであった。

たくさん並んでいるお地蔵様と墓石、ボーンと寺の鐘が響き渡る。そして、その中にアキトは居た。
「アキト・・・・君?」
「今日は3回忌でしたね。」
3人は墓の前で手を合わせる。お辞儀していた頭を起こし、ルリは語り始める。
「早く気づくべきでした。」
「え?」
「あの頃死んだり行方不明になったのは、アキトさんや艦長、イネスさんだけではなかった。ボソンジャンプのA級ランク・・・目的地を
遺跡に伝えることが出来る人、ナビゲーター・・・みんな、『火星の後継者』に誘拐されていたんですね。」

「誘拐!?」
「この2年間あまりアキトさんたちに何が起こっていたのか、私は知りたくありません。」
「知らないほうがいい。
」 「私も知りたくありません。でも・・・・どうして・・どうして教えてくれなかったんですか?生きてるって・・・・」
「教える必要が無かったから。」
「そうですか。」
「!!」
パチン!!

その言葉を聞いたミナトは耐え切れられずにアキトの頬に張り手をくらわせる。
アキトもそれを避けようとも思わずそれを受ける。

「あんたなんてこと言うのよ!それでよくあの時この子を引き取るなんていえたわね。
アキト君。謝って。この子はねホントはアキト君のことを・・・・」

(来たか・・・・)アキトの視線のさきにソイツらは居た。編み笠にマント、いかにも時代劇で出てきそうな出で立ち。
アキトは懐から銃を取り出し、引き金に指をかける。
「アキト君・・・・・?」
「迂闊なり、テンカワアキト。我々と一緒に来てもらおう。」
「な、何あれ?」

話が終わると同時にアキトは引き金を引く。銃口から鉛の矢が一直線に放たれる。
しかしそれも北辰の装着しているアーマーによって防がれる。
「重ねて言う、一緒に来い。」
「アキト君。」
「手足の一本はかまわん。」
「斬」
いっせいに男達がマントの下から短刀を取り出す。
その間にもアキトはなれた手つきでリボルバーのマガジンから空薬莢を排除して新たな鉛の弾を挿入する。

「あんたたちは関係ない。とっとと逃げろ。」
「こういう場合、逃げられません。」
「そうよね〜。」
「女は?」
「殺せ。」
「小娘は?」

「あやつは捕らえよ。ラピスと同じく金色の瞳。人の技にて作り出された白き妖精。
地球の連中はほとほと遺伝子細工が好きと見える。汝はわが結社のラボにて栄光ある研究の礎となるがよい。」
ルリの脳裏に自分が遺跡に融合させられたイメージがなされる。

「あなた達ですね。A級ジャンパーの人たちを誘拐していた実行部隊は。」
「そうだ。」
「我々は『火星の後継者』の影人にして人の道をはずれたる外道。」
「「「「「すべては新たなる秩序のため!!」」」」
「ハッハッハッハッハ」
「何!!」
「え!?」
一同の視線が声の主の方向を向くそこに居たのは白の学ランを着た長髪の男。
そう、熱血クーデターで姿を消し、ネルガルの裏で働いている月臣源一郎である。

「新たなる秩序笑止なり。確かに破壊と混沌の果てにこそ、新たなる秩序は生まれる。それゆえに産みの苦しみ味わうのは必然。」

「しかし、草壁に徳なし」
北辰は陣を組んだまま月臣と相対する。
「久しぶりだな、月臣ゲンイチロウ。木星を打った裏切り者が良く言う・・・・」
「そうだ、友を裏切り、木星を裏切り、今はネルガルの犬」

月臣の言葉を合図にして墓石に隠れていたシークレットサービスがいっせいに己の武器を向ける。
「隊長!!」
「慌てるな。」
「テンカワに懲りすぎたのが仇となったな北辰。」
「えっ、えっ、えっ、キャッ」
イネスの墓石の下から野戦服を着て、マシンガンを構えるゴートが姿を表す。
「久しぶりだな、ミナト。」
「そっ、そうね、ははは」
「ここは死者が眠る穏やかなるべき場所。北辰、投降せよ。」
「しない場合は」
「地獄へ行く」
「それはどうかな?烈風」
「おう、シェアアァァァァァァァァァァ」

烈風による走りながらの突きしかし、月臣はそれを流し、烈風の頭蓋骨を捉え握る。
「木連式抜刀術は暗殺術にあらず。」
かこっと言うりんごをかじったような音が響く。
「シャアア!!!」
それを見て更に攻撃をしようとする2人に対して倒された烈風が投げ飛ばされ、2人は倒れてしまう。
「うっそぉ〜」その攻撃を見てアキトはつぶやく。
「木連式柔・・・」「えっ?」
「邪になりし剣、我が柔には勝てぬ。北辰、投降せよ!!」
言葉を聞きながら邪悪な笑みを浮かべる北辰。
「跳躍。」

その言葉を合図にして北辰のマントが開かれ、中からCC(チューリップクリスタル)の光が発せられる。 「ボソンソンジャンプ!」

「何!?」
ゴートとシークレットサービスの口から驚きの声が発せられる中、北辰達は光に包めれて行く。
「ハハハハハハハハハ、テンカワアキト、また会おう。」
その言葉と共に北辰は消えた。単独のボソンジャンプである。
「単独のボソンジャンプ。」
「やつらはユリカを落とした。」
「えっ!?」

私はアキトさんの声に振り向いた。だけどアキトさんの顔色は変わって居なかった。
「草壁の大攻勢も近い。だから・・・・」
「だから?」
「君に、渡しておきたいものがある。」私はそのアキトさんの顔を見上げた。
「少し、移動しよう。」

アキトさんはゆっくりと歩き出した。私もその後に続く。着いた先はお墓から少し離れた草原でした。
アキトさんはマントのしたから何かを取り出します。
それは、一枚の、そして、私とアキトさん、ユリカさんにとって大切なものでした。


私、こんなものもらえません。」
ルリちゃんはメモを持ったまま俺を金色の瞳で見つめる。
「それは、アキトさんがユリカさんを取り戻したときに必要なものです。」

「もう必要ないんだ。」
俺にはもう、ユリカという名の偶像はいらない。

「君の知っているテンカワアキトは死んだ。彼の生きた証、受け取ってほしい。」
「それ、カッコつけてます。」
にらんで俺を見るルリちゃん。
「違うんだよ、ルリちゃん。やつらの実験で頭ン中かき回されてね、それからなんだよ。」

俺はバイザーをゆっくりと外す。今までの補助がなくなり、ルリちゃんの顔がぼやけて見える。

「特に味覚がね、ダメなんだよ。
しょっぱいとか甘いとかはほんの少しだけ感じられるけど、君にとっては甘すぎるものになってしまうんだ。」

「それと、感情が高ぶるとボォーォと光のさ。漫画だろう?」
自分の顔に自嘲の色とナノマシンパターンが浮かび上がっているのが自分でも感じられる。
「もう、君にラーメンを作ってあげることはできない。」
そう言うと俺はバイクに向かって歩きはじめた。

これ以上ここにとどまっても意味の無いことだからだ。そんな俺のマントが引っ張られる。

「そんなことはいいんです。」
「ルリちゃん・・・・・」
「私にとって大事なことはラーメンが作れるとか体が光るとかそう言うことは関係有りません。
私にとって大切なのはテンカワアキトという男性です。」

そう言って俺に抱きつくルリちゃん。瑠璃とシルバーの混ざったような髪からシャンプーの匂いがする。
そして、体も俺の知っていた彼女とは違い、丸みを帯びて、女性となっている。

「私は、今まで考えていました。アキトさんは私にとって一体何なのか、その答えを、今言います。
私にとってあなたは、テンカワアキトさんは愛おしい人です。私はあなたのことを愛しているんです。」

そうだったのか。ルリちゃんは今まで悩んでいたのか。でも・・・・

「君の好意はうれしい。けれども、君と俺の生きている世界は違い、
俺は君の知っていた俺とは違うし、もう、君たちの元にも戻らないつもりだ。」

「そんな・・・・」

ルリちゃんの瞳が大きく開かれる。そして、俺のナノマシンも光っている。
「だから、これでさよならだ。」
俺はルリちゃんと相対するとルリちゃんの前髪を梳かし、おでこに優しくキスをした。
キスをし終わると俺は又バイクの元に戻る。エンジンがうなり。俺は、墓場を後にした。


取り残されたルリ。
「あの人は、本当に変わって居ません。」
「ルリルリ?」
ミナトが後からそのルリを見つめる。
「ミナトさん。アキトさん、変わって居ませんでした。でも、私はどうしたらいいんでしょう・・・・・」
「ルリルリの思う通りにすればいいと思うわ。]
「そうですね。」
そう言ってルリは空を見上げた。どこまでも蒼い空が広がり、白い雲が浮かんでいる。ルリは、その空を見つめていた。

エンジンのうなりがやみ、俺はひとつの店の前に来ている。
周りからの視線を感じるのだが、俺はその視線を無視して店内に入る。
「いらっしゃいませ。」
老人が出迎える。
「指輪を受け取りにきた。」

「えーと、あなた様はどちら様でしたかな?」
俺はマントの中から財布を取り出し、昨日渡されたメモを渡す。
「ああ、あなたでしたか。昨日とは雰囲気が違いましたのですみませんでした。」

「よく、言われます。」
苦笑する俺を見て、老人は微笑む。
「はい、4点でしたね。アキト、ラピス、パール、ヒスイ。それぞれの箱の裏に、名前のシールが貼ってあります。」

そう言って老人は紙袋を渡す。

「ありがとうございます。」
「では、お会計のほうと、サインをお願いします。」
俺は、会計をカードで済ます。それとサイン。メモ帳のようなノートに偽名ではなく、本名であるテンカワアキトと書いた。
この老人に嘘はつきたくないからだ。

「はい、ありがとうございます。又のご来店をお待ちしております。テンカワ様。」
「ああ、ありがとう。」
俺は再びバイクにまたがり、エンジンを始動させる。さあ、家に帰ろう。


私たちが泣き止むと、時計はすでに12:00を過ぎていた。こんなに言い合っていたのかと思うと驚きである。 「パール、ヒスイ、買い物とお昼を食べに行こう。」
「そうですね。」「うん。」
私たちは早速家を出て出発した。
ラピスが居た社宅は最寄の駅があり、3人はすぐに駅へとやってきた。周りからの視線が3人に向けられる。

それもそうだろう。
マシンチャイルドである3人は普段はアキトと行動しているので、普通ならば3人だけでは出かけることなど無いのだから。

3人はすでに近くのファミレスで食事をとり、お買い物体制完了の状態である。
ラピスは腕時計型の端末で道をサポート。パールはお財布にカードを装備。
そして、3人が色違いのリュックを背負っている。これでビニール袋要らずである。

デパートで3人はランチョンマットを買い、花瓶も買った。
デパート地下、そこは食材の宝庫であり、お惣菜を求めて奥様が行列を作る場所。そこに妖精3人組はやってきた。
3人は食材を求め、デパ地下をさまよう。

ジャガイモ。にんじん、牛肉。今日はステーキやポテトサラダ、それが今日の夕食となる。
その買い物が終わるとさっさと3人は帰ろうとしたが、「花を買いませんか?」というパールの提案に2人が同調して。
花屋でユーチャリスを買った。ラピスは小さなジョーロも買った。ユーチャリスにおいてきた花の水やりに使うためである。

3人はデパートを後にして、社宅へと帰った。社宅にはまだアキトは帰っておらず、急いで用意をはじめる。

「ヒスイはランチョンマットの用意と飾りつけ、パールと私はお料理。ヒスイも飾り付けが終わってからお料理ね!!」
「分かりました。」「オッケー♪」

キッチンの窓の外には夕日が沈んでいる。パールは牛肉を包丁でたたき、塩と胡椒で下味をつける。
ラピスはジャガイモをふかしていて、ヒスイはランチョンマットから値札をはがしたり、花瓶にユーチャリスをいけている。
ヒスイは飾りつけを終えると料理に参加。ラピスと一緒にジャガイモの皮むきに居奮闘中。

パールは茹でたにんじんを切ってその中に入れている。にんじんが終わるとパールはステーキを焼き始める。
フライパンにオリーブオイルを入れて、温め、そして、牛肉を入れる。

なんともおいしそうなにおいがキッチンに広がる。ラピスはボールを抑えて、ヒスイはジャガイモをつぶすのに奮闘中。そして・・・・
「「「出来た!!」」」
3人の前には苦心して作った料理が並ぶ。以前の包丁の持ち方すら知らなかった彼女達を思えば目覚しい進歩でえあろう。
「ただいま。」
薄暗くなった空のもと、家の主であるアキトが帰ってきた。
「「「お帰りなさい」」」
3人はそろってお出迎え。視線はアキトの持っている紙袋に注がれる。

「それはなんですか?」パールはたずねる。
しかし、アキトは微笑しながら答えずに入ってくる。
そこで、アキトのはキッチンのテーブルに並べられた料理を目にする。それをみてアキトは微笑むを自室へと向かった。 「あの紙袋なんだったんだろう?」ご飯をもあるラピス。
「そいですね。」茶碗をお盆に載せるパール
「気になるよ〜!!」ヒスイはたまらず腕を振り回す。


最近はあの3人と居ることで笑うことが多くなった。
復讐者となってこんな気持ちに再びなるだなんて思っても見なかった。でも、悪い感じはしない。

バイザーを外し、淵なしのサングラスに替える。戦闘服も解除して外す。
肌が外気と触れ、あれを書いていたことに気づくアキト。その汗はすげさまタオルによってふき取られ、
Tシャツを身に纏い、Gパンを穿く。最後に紙袋を持ってアキトは自室を後にした。

テーブルにパールがお茶碗を並べ、ラピスとヒスイはイスに座っている。
「さあ、最後の夕食となるご飯だ、ちゃんとたべろよ。」アキトの言葉に頷く3人。「「「「頂きます。」」」」
4人はいっせいに食べはじめる。そして・・・・・
「「「「ご馳走様でした」」」」

挨拶を済ますと、4人は自分の茶碗をキッチンの流し台に持って行き、水を入れる。
そして、ラピスがスポンジを取って洗い始めようとした、そのときであった。
「今日はラピスとヒスイ、パールにプレゼントがある。」

その言葉を聞いて3人は一目散にアキトの元へと集まる。そのアキトの手にもたれているのは1つの紙袋。
アキトは、その中から箱を4つ取り出した。アキトは箱の裏を見て、それぞれの箱を3人に渡す。

3人はその箱をまじまじと見つめる。

「アキト、開けてもいい?」
ラピスの問いにアキトは頷く。それを見て、箱を開ける3人。その中にはシルバーの指輪が入っていた。
「え!!・・・・これって」「指輪」「ですね。」
その声に頷くアキト。
「これは俺からのプレゼントだ。又、会えるように、お互いを忘れないようにな。」

照れくさそうにアキトも自分の手を3人に見せる。その人差し指にはラピス達と同じ指輪がはまっていた。
それを見てまねするかのように指輪をするヒスイとパール。

「これで同じですね(だね)。」
そんな中、ラピスだけは後ろを向いている。
「ラピス?どうした。」

そうたずねるアキトにラピスは顔をそむけながら左手を差し出す。その、左手の薬指に、指輪ははまっていた。

「ラ・・ラピス・・・その指は・・・」
「これでアキトのお嫁さん。(ポッ)」
ラピスの顔はりんごのように真っ赤になってしまった。「「あーーーーーずるいです(よーー)。」」

ヒスイとパールから非難の声があがる。結局最後まで平和で、楽しく、のんびりとして、危険が漂うアキトの休日は終わった。


終始 
 
今まで住んでいた部屋の荷物をまとめ、アキトとラピス、ヒスイ、パールは玄関に集まっていた。
「短い間だったが世話になった。」
そう言ってアキトはジャンプフィールド発生装置を作動させる。
B級ジャンパーである3人とアキトの体にナノマシンパターンの光が広がる。
「ジャンプ」

後には部屋が静かになった。

「着いたな。」「ハイ。」
そこに現れたのは黒の戦闘服、マント、バイザーをした男、テンカワアキト。
その彼に寄り添うかのように手をつないでいる薄桃色の髪の少女、ラピスラズリ。それにパールとヒスイの2人である。

その4人の目の前に居たのは、スーツ姿の女性、エリナキンジョウウォンである。
「ここに来るのなら、連絡くらいしてほしかったわ。それに、荷物までここに持ってくるだなんて・・・・・・」

そう、ジャンプアウトしたアキトとラピスの持ち物は着替えの入ったリュックに、
黒塗りのバイク(ウリバタケカスタム)それにパールとひすいの背負ったリュック。その荷物を従えたままネルガル月ドッグの所長室にジャンプしたのだ。

「すぐにそれはもって行ってもらうわ。補給の完了は後一時間。それまで何をしているつもりかしら?」
「武器の整備とサレナのスペックのチェックでもしている。」
そう言って勝手に出てゆくアキト。ラピスもそれに続く。残されたパールとヒスイ。
「あなた達はどうするのかしら?」

それに戸惑う2人であったが、2人もアキトたちを追いかけた。

「どうしてあなたは人をひきつけて変えてゆくのかしらね。ねえ、アキト君。」 最後の点検。これは戦いにおいて最も重要なものだ。俺は月ドッグにある部屋へ向かった。
そこにあったのは今までの着替え、弾薬。そして、机の上にはふたつのディスクあった。

ラベルにはブラックサレナ・サポート機仕様書とユーチャリス強化ユニットの仕様書とある。最後に瓜の字が有るのでウリバタケさんの
ものに違いない。机中に入っている端末を2つだし、コミュニケの端末と接続して、データを呼び込む。
ラピスもユーチャリス強化ユニットのデータの読み込みをしている。

表示されるシステムの中には俺が発案したものもある。なかなかの出来となてっいる。
流石、ウリバタケさんだな。その途中でパールとヒスイが入ってきた。

「どうした?2人とも。」
「最後は、一緒に居たいですから。」「うん。」

パールとヒスイはそのまま室内に設置されたキッチンへと向かった。そして戻ってきたときには紅茶で満たされたカップを持ってきた。
「はい、どうぞ。」
「ああ、ありがとう。」

ヒスイは砂糖をカップに入れてかき混ぜる。俺はその紅茶を飲んだ。味はよくわからない。
けれども、わずかに残った嗅覚が紅茶のにおいを俺に伝えてくれる。それだけでも良かった。その室内にウインドウが開かれる。

「アキト君。補給が終わったわ。」
「ああ、分かった。」

俺は荷物を詰め込み、ラピスと一緒に部屋を出ようとした。そんな俺とラピスを見てパールとヒスイは涙目になってしまっている。
俺はその二人に視線を合わせた。
「パール、ヒスイ。これで本当にお別れだ。けれども、俺とラピスは決してお前達のことを忘れない。」
「「本当??」」
上目遣いで見てくる2人。
「もちろんだよ。」
ラピスも俺に続いて言う。
「だから、お前達も元気で居てくれ。」
そう言って俺はパールとヒスイのおでこに優しくキスをした。赤くなった2人を置いて俺とラピスはユーチャリスドッグに向かった。

悠々と横たわっているユーチャリスの格納庫、そのタラップの上にアキトとラピス、エリナは居た。
「ルリちゃんがナデシコCと合流したそうよ。」
「勝ったな。」
「ええ、あの子とオモイカネがそろえばナデシコは無敵になる。」
「俺達の実践データが役に立ったというわけだ。」
「やっぱり行くの?」
「ああ。」
ラピスが心配そうにアキトを振り向いたがアキトはそれを無視して話を続ける。

「復讐。昔のあなたには一番似つかわしくない言葉だったわね。」
「昔は昔、今は今さ。補給、ありがとう。」
「いいえ、私は、会長のお使いだから。」
そう言って淋しそうにするエリナを置いてアキトはラピスを伴ってユーチャリスへと向かった。


ユーチャリスラピス用オペレートルーム。そこにはラピスの姿があった。
「アーク、ジャンプフィールドの展開を開始。」
(アキト、ジャンプフィールドの展開を開始したよ。)
(そうか、目的地は火星のネルガルの研究施設にしよう。チューリップのそばならばボース粒子の反応が出ても疑われる心配は無い。
そこでイータとの接続を離し、光学障壁を保ったままにしておいて、俺達は火星のほうに向かう。)

(ついに、最後になるんだね。)
(ああ。さあ、行くぞ。)
(ハイ。)

ユーチャリスはボソンの光芒を残し、今まで居たネルガル秘匿ドッグを後にした。

ボース粒子の反応。それはボソンジャンプの証。火星の後継者に占拠された極北遺跡の上空にそれは現れた。
白をメインにした船体。そう、ナデシコCである。
そのナデシコCに攻撃をしようとしたのだが、火星の後継者のステルンクゲールや戦艦はその活動を停止してしまった。

ナデシコC最大の武器であるハッキングである。このことによって事実上火星の後継者はルリの手によって抑えられたのである。
「皆さん、こんにちは。私は地球連合宇宙軍所属ナデシコCの艦長のホシノルリです。」
「元木連中将草壁春樹。あなたを逮捕します。」
ウインドウの向こうでは「黙れ!魔女め」とか「我々は負けん」などといっている人がいる。

そんな中で草壁は目を閉じています。
「・・・・・部下の安全は保障してもらいたい。」

流石に違いますね。この人は。私は不本意ながらにそんなことを考えてしまいました。そんな中、ユキナさんからの声があがりました。

「ボソン反応7つ!!」
「ルリルリ!」
「かまいません。」
「え!」
そんな声がブリッジに響き渡りました。
「あの人に・・・ませます。」


白銀の世界の中、その機動兵器は飛行していた。
北辰の駆る夜天光とその部下が駆る六連それぞれが錫丈をもち、まっすぐに極冠遺跡に向かっていた。
「いいんですか?隊長?」
「ジャンプによる奇襲は諸刃の剣だ。アマテラスがやられたとき我々の勝ちは五分と五分。
地球がわにA級ジャンパーが居た時点で、我々の勝ちは・・・」

そのとき夜天光のコックピットに警戒のアラームがなり響いた。
北辰達の前にボース粒子を纏いながら一隻の戦艦が現れた。剣のようなフォルムを持つユーチャリスである。

その艦首にはアキトの駆るブラックサレナが在った。その前で一列に並ぶ北辰たち。
「決着をつけよう。」
その言葉を聞いたアキトの顔に名のマシーンパターンが表れる。次の瞬間、ブラックサレナと夜天光、六連はいっせいに飛び立った。

サレナを円状で囲う夜天光と六連に対してアキトはハンドガンを撃つ。しかしその攻撃はかわされ、
次に夜天光からのハンドガンとミサイルの洗礼を受けるサレナ。

しかしその攻撃はディストーションフィールドによって防がれる。防がれたミサイルの煙の中サレナは突入する。
そのコックピットの中のアキトの瞳にはナノマシンパターンが、顔には明らかな殺意の表情が現れていた。

私、いま私はアークと一緒に居る。戦うアキト。そのアキトを助けるためにバッタを出す。
でも、そんな私の中に何かが入ってくる。
【あなたは誰?私はルリ、これはお友達のオモイカネ。あなたは・・・・】
【ラピス。】
【ラピス?】
【ラピスラズリ。ネルガルの研究所で生まれた。・・・・】
【私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手アキトの足、アキトの・・・アキトの・・・】

ワタシノナカデウカンデクル。紅イ目、倒レル人。でも今はアキトが居る。


旋回しながらハンドガンを撃ち、下降するサレナ、それを追跡する六連。
後から追撃してくる六連ぬ向かってハンドガンを撃つアキト、その彼の前に一機の六連が現れ攻撃をしてきた。
しかし、その後から紅い機動兵器、夜天光が現れたのだ。夜天光から繰り出されるアッパーのパンチが何度も放たれる。

「怖かろう、悔しかろう、たとえよろいを纏おうとも、心の弱さは守れないのだ。」
その言葉を聞いたアキトの脳裏にユリカの姿が現れる。微笑んでいるユリカ、捕らえられたユリカ。

そして、遺跡と融合したユリカ。俺にはもう、ユリカは必要ない。そう、もう俺は自分の意思で戦っているんだ。
そのアキトの意思を受けたサレナはフィールドを張ったまま体当たりを強行する。
装甲の一部が砕け散るがアキトはそれを気にせず、けられた後から距離をとり、ハンドガンを放った。

それをかわし、夜天光は飛んでゆく。アキトもをれを追跡した。

火星の荒野で退治する夜天光とブラックサレナ。その上空ではナデシコCのエステバリス隊が六連を次々に追撃している。
「よくぞここまで・・・・人の執念、見せてもらった。」
コックピットのなかでアキトはヘッドプロテクターを外す。
「勝負だ!!」
それに対して北辰は不敵な笑みを浮かべた。アキトは今まで撃っていたハンドガンを収める。
「抜き打ちか、笑止。」

夜天光の手が回転する。空では最後の六連が落とされる。その瞬間2機は一気に肉薄した。
夜天光からの機体の重量を乗せた一撃が放たれる。後に押されるブラックサレナ。
しかしその一撃はブラックサレナの重厚な装甲によって阻まれる。そしてブラックサレナからの重い一撃が放たれた。
夜天光から稲妻が放出される。夜天光は煙を立てながら倒れる。

「ゴップッ、見事・・だ。」

ひしゃげたコックピットの中で北辰は口から血を吐きながら息絶えた。

サレナの装甲が炸薬の付いたボルトによって排除される。
中から出てきたのはピンクのエステバリスカスタム。それは過去のアキト愛機と同じカラーリングであった。
装甲排除、フィールドジェネレーター強制排除などのウインドウが展開されるコックピットの中でアキトは激しい呼吸をしていた。

「勝った・・・な。」
アキトは体についていたプロテクターを解除して大きく息をついた。
「ジャンプフィールド展開。目的地はユートピアコロニー上空のユーチャリス。」
アキトの頭の中で自らの家であり、武器でもあるユーチャリスの格納庫のイメージが展開される。
「ジャンプ。」
後には物言わぬ夜天光とサレナの装甲だけが残っていた。


ゆっくりと開かれる瞳
「あれ?みんな?」
ユリカの前にはルリ、ジュンとユキナ、ミナトとハーリーが居た。
「みんな老けたね。」
「フ〜」
その言葉を聞いてその場に居た全員が安堵して、大きくため息をついた。
「よかったぁ、いつものボケだ。」
「私、夢を見ていた・・・アキト」
「・・・アキトは、どこ?」

その瞬間、遺跡が輝き始める。
「イネスさん?これは一体?」
「おそらく何かがジャンプしてくるんだわ。」
次の瞬間、ルリ達の居た場所の天井の隔壁が轟音と共に破壊された。その破壊の牙はルリたちにも迫っていた。
しかしその牙はフィールドによって防がれた。遺跡の自己防衛システムである。

そして穴のあいた天井から見えたもの、それは横側面に新たな双剣、強化ユニットイータを装備したユーチャリスの姿であった。
ミナトがユーチャリスを見上げながら言う。
「あれって?」
その問いにルリがすばやく答える。
「アキトさんの母艦です。」

ユーチャリスはゆっくりと降下をはじめる。その巨体を遺跡内に収めるとユーチャリスは降下を停止した。
それと同時に遺跡が光り始めた。ボソンジャンプの証である。

ボース粒子を纏いながら現れたのは黒いマントとバイザーと身に纏ったテンカワアキトとそのアキトにお姫様抱っこ状態で現れた
黒のYシャツに白のベスト、そして黒のロングのタイトスカートを着たラピスラズリであった。
アキトは膝をついてラピスを立たせると遺跡の上に居るナデシコのクルーの近くへと歩み寄った。
ラピスもその後に続く。

「アキトさん!!」
ルリの言葉をさえぎるかのようにウリバタケがその前に立ちはだかる。
「よう、テンカワ。強化ユニットイータ・・・はどうだ?」
「グラビティーブラストを360度に発射することを可能にし、副砲としての機能と相転移砲をも発射できるように
強化した能力、申し分がありません。いままで、ありがとうございました。」

「お前が何を考えているのかのかは知らない。けれども、俺は曲がりなりにもお前を信じた。俺を失望させないでくれよ。」
そう言うとウリバタケはルリの前からどいた。
「はい。」
そのウリバタケの行動に対してアキトは感謝するしかなかった。
「アキトさん。」

彼の前で対峙するルリ。そのルリを無視してアキトは遺跡の中心、今までユリカが居たところに歩みを進めた。
「さあ、約束道理に来たんだ。証を示せ。」
そう言うアキトを不思議そうに見るナデシコクルー。けれども、変化はいきなり現れた。

突然の発光。その場に居た全員が腕で自らの目を覆った。その発光もすぐさま途切れる。
そして、遺跡の中央に居たアキトとラピスの手の甲には今まで無かった模様が現れていた。
「時は常に流れるもの。」

その言葉を聞いたその場に居た全員は驚愕した。
そう。今まで遺跡と融合していたユリカがいきなりしゃべり始めたのだ。

「今はこの者の体を介して汝らと話している。守護者、そして、支えし者。2者がそろい、盟約は果たされた。
さあ、いくがいい。守護の求められる時へ。」
それと同時に遺跡の上空が輝き始める。空間の歪みがゆっくりとそれは開いた。
その歪みからはチューリップゲートと同じ空間が広がっている。

「空間の門。この先にこそ汝らの求められる世界がある。さあ、いけ。」
言い終わるとユリカはぱたりと倒れてしまった。アキトはルリの前に立つ。
「ルリちゃん。ホントにこれでお別れだ。これでもう二度と君と会うことも無いだろう。だから、これで最後だ。」

「そんな逃げ方って無いです。そんな・・・・・・」
ルリの金色の瞳から涙があふれてしまう。

「ルリちゃん。」
アキトはルリの肩に手を置きルリの唇に自らの唇を寄せる。ゆっくりとしたキス。
「さよならだ。」
そのとき、ユリカも目を覚ます。
「アキト・・・・・」
「ユリカ・・・・さよならだ。」
「アキト!?どう言うこと?ねえ、答えてよ。」

アキトのマントにすがるユリカを無視するアキト。
「もう、お前は、いらない。お前と言う偶像が俺を惑わし、戦わせ、最終的には悟らせた。
その点では感謝しているが、所詮そこまで、だからこそ、さよならだ。」
ユリカの瞳が一段と大きく見開かれる。
「何言っているの?アキト。ねえ、答えてよ。ねえ。」

泣きながらすがってくるユリカの唇に優しくキスをしてアキトは突き放す。
「ラピス、いくぞ。」
「はい。」

ユーチャリスがゆっくりと空間のひずみに降下をはじめる。それと同時にアキトとラピスの体全体にナノマシンパターンが広がる。

「さあ、行こうか。」
「ハイ。」
2人はお互いに向き合い、アキトはラピスにひざまずく。
「「ジャンプ。」」

言い終わると同時にキスをする2人。

直後、アキトとラピスの2人がボソンの粒子となって消え、ユーチャリスを飲み込んだ空間のひずみは消えてゆく。
それと同時に遺跡より放たれた光が遺跡全体、そして、宇宙全体を包んでゆく。

それと共に、時は、流れることを停止した。

そして、ゆっくりと時は戻り始める。

あるはずの無い出来事、過ぎてしまった出来事を無視するかのように。


けれども、守護者は消え

時は戻り
新たなる戦いがはじめる。



一覧へ