星の数ほど人がいて
星の数ほど意思がある
 
そして

第8章 再会



ユーチャリス格納庫、そこにアキトは居た。目の前に立つのは追加装甲ブラックサレナ。
「もうすぐ戦いが始まる。よろしく、頼むぞ。」

意思無きブラックサレナは唯そこに在るだけだ。 しかし、アキトにはサレナが了解してくれたように感じた。アキトはコックピットに飛び乗る。 通常では考えられないことなのだが重力が軽減されているこの格納庫では可能なことだ。
「高機動ユニット装備開始。」

アキトの言葉に反応して機械が活動を開始する。サレナは移動を開始して高機動ユニットを装備する。
【ラピス、サポートを頼む。】
アキトの想いにラピスも答える。
【私はアキトが居なくなるのはいや。だから、がんばる。】

【ああ。】
サレナはジャンプを開始する。そう、戦いの場へと・・・・・・・・


ブリッジメインエレベーターシャフト、そこにはラピスの姿があった。
パステルグリーンをメインとしたオペレータースーツそれこそがラピスの戦闘服。
エレベーターが下降をやめ停止する。
ブリッジとは反対側にラピスのメインオペレート室がある。そこはブリッジよりは狭いが1つのイスがある。
それこそがオペレーター席。そこにラピスが座る。
「戦闘態勢。」
ラピスの命令によって機械が作動を開始する。オペレーター席がレールに沿って上昇、停止する。
ラピスの視界に移るメインスクリーンの映像。それは漆黒の宇宙、
今ユーチャリスが居るのはアマテラスのレーダーのレンジ外である。

アキトのリンクによってラピスは単独ジャンプが可能なのだがそのことを知っているのはアキトだけである。
ユーチャリスを連れてのジャンプも出来ることが分かっている。

しかし、ユーチャリスは一旦ネルガル月ドッグに戻るのだ。そうなると後がまずくなる。
ということでアキトとラピスはネルガルの指示に従い、この地点にきていた。
サブウインドウにジャンプを開始するサレナが映る。

「フーーーーーー」
大きな深呼吸、ラピスの頭の中では今までのアキトとの訓練や面白かったことが走馬灯のごとく映し出されてゆく。
けれどラピスにとって重要なことはこれからなのだ。
【行く!】
ラピスの閉じていた目が開かれる。ユーチャリスは待つ。アキトが呼ぶときを。

たくさんの粒子の粒、その中で再形成されてゆく黒い機体。鳥のような翼、悪魔のようなテールバインダー、
アキトはコックピットの中で不敵な笑みを浮かべる。
それは以前のアキトには無い新たなアキトの心情を表していた。
並ぶたくさんのミサイル衛星、放たれる破壊の牙、しかしブラックサレナはそれを無視して起動し始める。
たくさんのプレッシャー、高機動ユニットによるいつもより厳しいG、たくさんの威圧感、そんな中にアキトはいた。

たくさんの人の死、その人々を殺した奴等、火星の後継者
【殺してやる、殺してやる、殺してやる。】
アキトの中に憎悪の感情が生まれる。
それは表情には表れずに頭の中だけで行われたこと、アキトの体はその想いに答え、たくさんのステルンクーゲルを蹴散らし、
戦艦でさえ手玉に取る。たくさんの機動兵器を引き連れ、ブラックサレナ宇宙を飛ぶ。不意に前方にあるコロニーパイプラインの上で
エステバリス隊が立ち上がりブラックサレナに接近を開始する。

警告音がコックピットに広がる。拡大、エステバリス2、危険、回避、たくさんのウインドウによる警告、
アキトはすばやく回避行動を取る。
先行してブラックサレナを追いかける赤いエステバリス2。
【リョーコちゃんか、彼女なりの選択がこの結果か。】
アキトの考えを無視してエステバリス2はさらに速度をあげて追跡してくる。
しかし、ブラックサレナは後退をはじめるそれについてくる多数の機動兵器。

【ラピス、ジャンプイメージ開始。ジャンプアウトと同時にグラブティーブラスト発射。】
【わかった。】
不意にコロニーの守備隊側面にボソンの光芒が広がる。
それと同時に4つの砲門から発せられる重力波。現れたのはナデシコシリーズと
同じ白い装甲、剣を模したかのような艦影を持つアキトとラピスの母艦ユーチャリスだ。

【ラピス・・・・・・・・ラピス・・・・・・・・・ラピス!!!】
アキトの呼びかけに答えるかのように開かれる金色の瞳。
ラピスの意思に答えるかのように立て続けに発せられるグラビティーブラスト。
いきなり現れた戦艦に対して守備隊は反撃にグラビティーブラストを放つが
ユーチャリスの強力なディストーションフィールドに阻まれてしまう。

襲撃のことにやっと気づいた機動兵器軍はユーチャリスへと攻撃しようを接近する。
しかしそれはユーチャリスの持つ強力なディストーションフィールドに阻まれ、
おまけとばかりにユーチャリスは艦内からバッタ、ジョロを大量に射出して、応戦する。

その間にラピスはユーチャリスのセンサー翼を展開する。上下に展開されるセンサー翼。
ラピス意識を集中させ、アマテラスへのハッキングを開始する。
【アキト、第13番ゲートから入れる。】
これからが本番だとラピスはさらにバッタ、ジョロを操り牽引を続ける。
漆黒の鳥はアマテラスへと再接近を開始する。

目指すはラピスのハッキングによって開きつつあるアマテラスにある
はずの無いブロック第13番ゲート。アキトは高機動ユニットの排除をすることにする。
高機動ユニットは狭いところでは逆に活動しにくくしてしまうからだ。
アキトはIFSコンソールの脇にあるスイッチを親指で押す。

すると高機動ユニットは弾け飛び、中から本体である死神、ブラックサレナ姿をあらわす。
前方から放たれる体空砲を無視するかのようにブラックサレナは飛翔し続ける。
エステバリスは先ほどの高機動ユニット排除のときに巻き込まれたのか、
リョーコの乗る赤いエステリスカスタムが追跡を続けている。

やがてアキトの視界の中に第13番ゲートが入ってくる。13番ゲートはアキトを向かいいれるかのように開いてゆく。 ラピスのハッキングの御蔭ともいえよう。 侵入者用のトラップはアキトの駆るブラックサレナにはまったくの無反応だった。
対応するまもなくブラックサレナがその場を通り去ったからだ。
次々に後ろへと飛んでゆく景色、それほどこのブラックサレナは早いのだ。
【もうすぐ遺跡があるブロックか。】
ブラックサレナは降下してゆく。ついた先には隔壁がある広い場所。

テールバインダーをパスワードパネルへと寄せる。
と、そこへ赤いエステバリスカスタムが現れ、ブラックサレナに通信ケーブルをつけられた。
通常通信はプロテクトを掛けて居れば通信は着信されない。
けれども物理的にケーブルがつながれれば話は違うのだ。
アキトの正面にウインドウが展開される。そこに移るのは赤いパイロットスーツを着たアキトも知る人スバルリョーコであった。

「俺は頼まれただけでネ。この子が話をしたいんだとさ」
そして、ウインドウの画面が変わる。そこに映るのは瑠璃色と銀の色を混ぜたような幻想的な髪、金色の瞳、宇宙軍の制服。
アキトの養女であったホシノルリである。
「こんにちわ。私は連合宇宙軍少佐ホシノルリです。」
「無理やりですみません。あなたがウインドウ通信の送受信にプロテクトを掛けているので、リョーコさんに中継を頼んだんです。
・・・・・あの・・・・・・教えてください。あなたは・・・・・・誰ですか?」

「あなたは・・・・・」
【ルリちゃん大きくなったね。でも、今はそんな場合ではない。】
「ラピス、パスワード解除。」
パスワード入力コンスールに近づけてあったテールバインダーから入力用のワイヤーが出される。
ヒサゴンの「パスワードを入力してね!!」という声に答えるようにラピスの操るワイヤーは軽快に入力キーをたたく。

{snow white}
白雪姫、なんとも皮肉がこめられたパスワードが入力されると硬く閉ざされていた隔壁が開いてゆく。
「時間が無い。見るのは勝手だ。」
隔壁が開いてゆく。その先に見えるのはアキトとルリ、リョーコにとっても思い入れのあるナデシコの解体された姿。

ブラックサレナの前をリョーコの駆るエステバリス2が先行する。
アキトもゆっくりとサレナを進める。そして、見えてくるのは花のように広がって鎮座する遺跡。
ラピスとの会合の後ここに搬入されたらしい。
【リョーコちゃんもルリちゃんもショックだろうな。】

アキトはそんなことを考えながらブラックサレナを滞空させていた。
「形は変わっていても、あの『遺跡』です。この間の戦争で、地球とも癖が共に狙っていた火星の遺跡・・・・・。
ボソンジャンプのブラックボックス・・・・・。ヒサゴプランの正体はこれだったんですね。」
「そうだ。」
「ルリイ。」
「え?」
「これじゃあ、あいつらが浮かばれねェよ。」

「リョーコさん・・・・・。」

「何でコイツがこんなとこあるんだよ。」
【それは】
「それは、人類の未来のため」

アキトが考えているのと同時にクサカベ中将の映ったウインドウが遺跡の上一面に展開した。
「草壁・・・中将?」
その瞬間アキトは思わず言ってしまった。
「リョーコちゃん、右!!!」
いきなり現れた六連が攻撃を開始したのだ。

攻撃を受け、錫杖が突き刺さったエステバリス2が落下して行く。そして次々に襲来する六連を相手にアキトは攻撃する。
【こいつらが現れたということは・・・・・・・】
ブラックサレナを脚部を排除したエステバリ2付近に着床させるアキト。
「お前達は関係ない。早く逃げろ。」

「今やってるよ。」

皮肉をこめた言い方で答えが返ってくる。その瞬間、コロニー全体に仕掛けられた爆薬が作動したのだ。
「な、何だ?」
すると、遺跡の上空から空間の穴が開いてゆく。その中から出てきたのは赤い機動兵器。錫杖をスキ無く構えている。
「一夜にて天津国まで伸び行くは、瓢の如き宇宙の螺旋・・・・」
「女の前で死ぬか・・」

するとその声に反応するかのごとく遺跡が発光をはじめる。
中から出てきたのは・・・・・・・・・・・ミスマルユリカ
【やはり融合を果たしていたか】
すると、いいきなりリョーコが言葉を発する。

「アキト!!!」
「アキトなんだろ?だから『リョーコちゃん』って、オイ!?」
しかし、アキトは語らない。

「滅」

北辰の合図と共に六連が攻撃を開始し、それと同時に天井から隔壁を破りタカスギ大尉の駆るスーパーエステバリスが姿をあらわす。
「ひっさしぶりの登場!!!」
掛け声と共に倒れ掛かっていたリョーコの乗るエステバリス2のアサルトピットを抱えて退避してゆく。
(これで大丈夫だな。)

再び北辰たちに相対する。向かってくる六連にハンドガンを撃つが相手は連携していて回避されてしまう。
北辰が駆る夜天光は錫杖を両手で横に持ち、そのままの姿勢で経って居る。
アキトはその方向にハンドガンを撃つが相手は幾分か動いて回避されてしまう。

そのうちにノズルを破壊された六連がで始め、夜天光を中心とした陣形を取り始める。
「それでは又会おう。復讐人。跳躍」
それと共にブロック全体に光が満ち溢れ、遺跡ともども消えてしまう。
「逃げられたか・・・・・・ジャンプ」
ブラックサレナもその場から消えてしまう。次の瞬間、その場は炎の包まれた。次々に大破してゆくコロニーを形成していた物。

そして、退避してゆく戦艦もたくさん居る。戦艦は次々に退避をはじめる。その中には当然ナデシコBの姿も在った。

ナデシコBブリッジ  

そこでは避難民を収容して初めてとも言えるであろう戦闘に興奮した雰囲気がそこには漂っていた。
そのブリッジに連合宇宙軍の制服に着替えたタカスギサブロウタと臨時の制服をきたリョーコが現れる。
「艦長、タカスギ大尉ただいま戻りました。」
「ご苦労様でしたタカスギ大尉。」
そういうルリにリョーコが近づいてゆく。
「なんでだルリ。何であのときにアキトを問い詰めなかったんだよ。何であのときにオレの事を止めさせたんだよ。」

しかし冷静に返すルリ。

「あの時は、そうするしかありませんでした。それに、火星の後継者達のことも重要です・・・・・・・・」
ルリは俯いてしまう。
「でも、アキトさんは必ず私の前に現れてくれるはずです。そう、必ず。」
そう言うルリの決意が現れているようにも感じられる言葉。それを聞いて黙ってしまう一同。
「アキトって言うのはテンカワアキトですよね艦長。」
そんなタカスギ大尉に答えるルリ。
「そうです。テンカワアキト、元ナデシコAコック兼パイロット。ナデシコを降りてからは一緒にユリカさんと
私と一緒に暮らしていた人。そして、私が幼心に想いを寄せていた人。」

「艦長、それって、その人のことが好き・・・・・」
「そう、好きだったんでしょう。でも、あの人はユリカさんと結婚してそのハネムーンで事故で死亡しました。
でも、あの人はどうやら生きていたみたいです。」
ブリッジは静まり返る。
「今はそのことを話している場合ではありません。本部の方に通信をお願いします。」
ナデシコは静かに動き出す。そう、ルリの想いを含めて。


ユーチャリスの格納庫にボソンの光るが広がる。
そこから現れたのは黒百合の名を冠された機動兵器ブラックサレナ。
その重厚な装甲を開け、アキトはコックピットから飛び降りた。高さ6メートルもあ
りそうな所から落下したアキトだが体重移動をスムーズに行い、足は痛くなっていない。

アキトは一路ブリッジに向かった。エレベーターシャフト内のエレベーター内からパイロットスーツのままアキトが出てくる。
「ラピス、さっきの戦闘の報告を。」
こくんと頷くラピス。
「先ほどはアキトが敵の中へ入り、おとりを勤め、私のほうでグラビティーブラストでの攻撃、
その後はアキトは遺跡の回収、こちらはバッタジョロでの応戦。
艦内では上下のディストーションブレードに過負荷がかかり、現在冷却中です。」

「そうか。一度ネルガル秘匿ドッグに戻ろう。ジャンプの用意を。」
「わかった。ディストーションフィールド、光学障壁展開。」
メインウインドウに銀色の幕のような物が展開される様を映させる。
「「ジャンプ」」
そして、純白の剣は光と共に消えた。





平和、人類が最も望むもの
平穏、ひと時の安らぎのとき  
では、はじめよう

第9章  最中 
   
月ネルガル秘匿ドッグそこには
隻の戦艦が入れるくらいのスペースが取ってあった。その空間に光が満ち溢れる。
そして、光がなくなると同時に現れたのは剣をイメージしたかのような鋭角なフォルムを持つ白い美しい戦艦ユーチャリスが現れた。

すぐさまドッグは騒ぎ出し始める。
ユーチャリスには停泊用の固定装置が装着され、ハッチにタラップが通される。
「ジャンプアウト、現在位置秘匿ドッグ。」
「ジャンプ成功だな。ラピス、久しぶりに降りるぞ。」
「うん。材料がほしかったから補給してもらう。」

ラピスの言っている材料とは料理の材料のことである。彼女はまだ妖精2人が居た時にエリナ主催の料理教室に行ったのだ。
そこで3人は料理が自分達でも出来るということを知り、アキトに食べてもらおうとがんばって習った。

パールとヒスイは途中で去ってしまったのだがラピスは今でも2人と張り合うかのように料理に対しての興味を持っている。
アキトはたまにそのラピスの姿を見て思わず昔、ナデシコに居たときのことを思い出したりしているがそれは心の中だけのことであり、
外見ではいつものように無表情でナノマシンやエステバリスなどの構造や対処法を覚えている。

時たまアキトは機械で実験をしたりするのだがどこかしら間違ったかのようにその機械は動かない。
しかし直して2度目に行うと成功したりするということがある。
このことはジンクスにもなっている。いわく『実験は必ず2度目に成功する。』だそうだ。

2人はお出かけ準備をしてユーチャリスを後にした。

ネルガル月ドッグ所長室

コンコンと言うロックと共に2人の男女が室内に入室する。
1人はボサボサの髪で淵なしのサングラスを掛け、黒いTシャツ、Gパン姿。
もう一人はきれいな桃色の髪をストレートで伸ばし、パステルグリーンのスカートとストッキングを折れそうなくらい細い足に纏っている。

2人はついさっきまでアマテラスを襲撃していた戦艦の乗員のテンカワアキトとラピスラズリである。
その室内に居るのは所長である髪を後ろに伸ばしたエリナキンジョウウォンである。
「火星の後継者がついに出てきたわね。」
「そうですね。北辰も出てきましたよ。」

アキトは以前の笑いを浮かべて答える。いつまでも神経を尖らせていると疲れるので笑いの仮面をかぶるのである。
「シークレットサービスのほうである情報を得たのよ。」
「情報?」ラピスが首をかしげる。
「そう、それは北辰がホシノルリを襲撃する。」

「なるほど、ルリちゃんはナデシコの艦長という立場に居る。そこでそのマスコット的なルリちゃんの存在を消すという
目的もあるかもしれないし、マシンチャイルドとしての能力を買って拉致する可能性もある。」

「その通りよ。だから、あなたにはこれから地球に下りてもらってホシノルリを護衛してほしいの。」
「分かった。しかし、ルリちゃんが地球に帰ってくるのには時間がかかるのだと思うのだが。」

ルリが戻るまでに時間がかかるというわけはアマテラスのチューリップが破壊されてしまったからである。
そのために、そのときにアマテラスに居た戦艦は近くの宙域のターミナルコロニーまで宇宙を航行して帰ってこなければなら無いたからだ。

「そう。その間はあなたには地球で休暇を過ごしてもらうわ。」
自信たっぷりのように行ってくるエリナ。
「休暇?」
「休暇・・・・か。」 すこし首をかしげるラピスに笑ったままのアキト。

「そう。休暇よ。あなたの命は短くなっているのよ。でもあなたは今まで戦いに明け暮れていたじゃないの。だから、たまには休みなさい。」
そういってエリナやわらかい笑みを浮かべる。
「たまには休むのもいいかもしれん。」
「アキトがそう言うなら」
ラピスもアキトに従う。
「そう、休暇の間にはしっかりとこの子達の面倒を見て頂戴。」
そう言うとエリナの後ろからふたつの影が現れる。それは・・・・・
「ヒスイ、パール!?」

そう、現れたののはラピスとアキトが分かれたはずのマシンチャイルド2人組みだったのだ。
2人はエリナの後ろから出てくると同時にアキトの腕に抱きついた。そのとなりではラピスが眉を吊り上げて怒っている。

アキトは2人の相手をしながらエリナに向きなおす。
「エリナさん、これは一体ドウイウコトですか???」
そのアキトの言葉を聞いてエリナは不敵な笑みを浮かべる。

「あなたと分かれてからこの子達は研究所にいたんだけど、テストで良い成績を取ればあなたに会わせてあげるって
結構無茶な条件出したんだけど、この子達はそれをクリアしたの。だからここに連れて来てあげただけ。まったく色男さんは大変ね。」
その内容を聞いてアキト首をかしげる。
「鈍感。」
エリナの声が室内に静かに木霊したのであった。
結局その後アキトは2人も連れて行くことを了承して全員でユーチャリスに休暇に持っていく荷物を取りに行くこととなった。
ユーチャリスドッグに鎮座しているユーチャリスに入る4人。

パールとヒスイにもしっかりカードキーが渡されていたりする。
4人はユーチャリスで着替え、銃、刀、戦闘服をバッグに詰めると早速指定されたシャトル空港に向かった。

シャトルは貸切であり、アキトは黒のTシャツにジーパン、黒のカーディガン。
ラピスはピンクの髪に金色の瞳、パステルグリーンのワンピース、ストッキングで身を包んで居る。
茶色の髪に空色のTシャツにスパッツを身に纏っているヒスイ。
パールはシルバーの髪をポニーテールにして純白のブラウス、タイトスカートを穿いている。

1人1人が人にかなりの印象を与えると思う4人は席がたくさん空いているのに固まって座っていたのだ。
「「「じゃんけんぽん」」」
「「「あいこでしょ」」」
今は発進前に座席決めがしていなかったので妖精3人組によるアキトの隣決定戦が行われていた。
ちなみにアキトは4つ並んでいるイスの一番右に座っている。

「勝った!!!」
どうやらシルバーの髪の少女、パールが勝ったようだ。
「「むーーーーー!!!」」
負けた二人はほっぺたを膨らませて怒っている。

しかし、2人の態度をパールも見ているのだがそんなことは気にしないでアキトの隣に座ってニコニコ顔である。
結局後の2人も座り、シャトルは発射した。シャトルが発射してからは重力制御がなされているために普通に行動
できるのでラピスとヒスイもアキトにベタベタしている。

せっかくじゃんけんで勝ったのにアキトと2人で話せないパールは少し膨れている。そんな機内に放送が流れる。

「今回はこの・・・航空を利用していただきありがとうございます。これから機長から挨拶があります。」
(アカツキ、お前何を考えているんだ?)
アキトの頭の中でははははと笑って居る落ち目の会長が浮かんできたとか・・・
「機長の、ゴートホーリーだ。」
その声にずっこけてしまうアキト。妖精3人はそのアキトを見て少し笑っている。
「当機は安全に地球に向かっています。どうぞ良い時間を。以上だ。」

そう言ってゴートが映っていたウインドウが消失した。どうやら面白くなりそうだ。

成層圏へと入り、機体全体に重力がかかりはじめる。したがって機内にも重力がかかるのでアキト、パール、ラピス、ヒスイは
しっかりとベルトを締め、着陸に備えていた。ゆっくりと機体が滑走路へと入り込んでくる。
完全に着陸するとシャトルは空港の搭乗区間に入り、ハッチが開かれる。

「今回この・・航空を利用していただきありがとうございました。なお、お降りの際には重力のことを考え、
しっかりと足に力を入れることをお勧めします。そして、又のご利用をお待ちしています。」

アキトは立ち上がり、持っていたリュックを背負う。
「じゃあ行くよ。」
そのアキトの言葉に従いラピス、パール、ヒスイも機内から出て地球に降り立つ。
アキトは空港で荷物を受け取り、ラピスたちをつれてネルガルへ向かった。


ネルガル本社ビルの前にアキト達一行は来ていた。何気なくゴートが一行の後ろに居るのだがそこを気にしてはいけない。
アキトはさっそくアカツキに会うことにした。

会長室のデスクには書類の山にうずもれたアカツキの姿があった。その脇ではしっかりとプロスペクターが見張りについている。
「プロス君、この書類はどれぐらいあるのかな?」
「そうですね。だいたい500はあるでしょうね。」
そのプロスの言葉を聞いてアカツキは更にげんなりと肩を崩した。 しかし、そんなアカツキに天からの使者が現れる。
「勝手ながらに入らせてもらったぞ。」
現れたのはテロリスト、テンカワアキトと妖精3人組、そしてゴートホーリーである。
「いや〜テンカワ君。よくきたね。」
アカツキは今までの姿勢が嘘のように良くなり、おまけとばかりに歯までキラーンと光っている。

「アカツキ、今の状況は?」
「今はアマテラスに居た戦艦からの通信を受け、地球連合のほうでは今は緊急会議中です。」
アカツキの変わりにプロスが答える。
「そうか。でえ、これからの対応は?」
「これからはテンカワ君には休んでもらうよ。君の体はナノマシンでぼろぼろだ。今は最終決戦に向けて英気を養ってほしい。」

「分かった。で、当分の住処は?」
「それはプロス君に今から案内してもらう。では、プロス君頼むよ。」
「ではテンカワさん。行きましょう。」
そう言ってプロスはアキトをつれて退室しようとした。
「ああ、ゴートさん、会長の見張りをお願いしますね。」
「うむ。」

その言葉で今までニコニコ顔だったアカツキの頬には冷たい汗が流れた。
アキトはプロスに案内されたネルガルの社宅の一軒家で妖精3人組と過ごすことになった。
食事は近くのスーパーで買った弁当を食べ、明日はお買い物に行くこととなった。

アキトは風呂に入ってからベッドに向かう。そこには、見事に妖精3人組がアキトのベッドに座っていた。
「どうした?ラピス、パール、ヒスイ。」
「「「一緒」」」
「・・・・・・わかった。」
結局今日もアキトは1人では寝なかった。


PM・6:00ここはネルガルの社宅となっている一軒家。今日から新たな生活が始まる。
ピピピピピピピピピ小さな電子音が部屋に響く。その音によってベッドがもぞもぞと動き始める。
ニョキっとベッドの中から腕が生え、その電子音の発生源である目覚し時計のスイッチを押す。

ベッドの中から出てきたのは眠気眼(まなこ)のパールである。長く伸びたシルバーの髪は
彼女の今の状況を表すかのように少しボサボサになっていた。

パールは目ざまし時計を止めた後、隣に居るラピスとヒスイを起こし、彼女達は着替えをはじめた。

それは昨日のこと、アキトが風呂に入っているうちに3人で決めたことだったのだ。
寝ているアキトを起こして3人で作った朝食を食べてほめてもらうという題して
「アキトにほめてほらおう!!朝食編」である。
最後の朝食編に編が付いているのでこの先にもこういったことを考えているのかもしれない。

3人は早速パジャマを脱ぐことにした。それぞれピンク、茶色のチェック、白のパジャマを着ていた
3人はいそいそと脱ぎ始める。彼女達が何故急いでいるのかというとアキトが早おきなためなのだ。

アキトは元はコックである。そのせいかアキトは極端に朝に強いのだ。
だからこそ、この作戦には早起きが一番のキーポイントだったのだ。
クローゼットにあった洋服を取り出すと3人はそれを着ようとする。

「うーーーーん」

しかし、アキトが目を覚ましてしまった。これには驚き急いで色違いのワンピースを着る3人。
しかし、あせりのせいかまごまごしているうちにアキトが完全に目を覚ましてしまった。
そこでアキトが目にしたものは・・・・・・・
急いでワンピースを着ようとしているのだが急いでいたせいか、ショーツは少し隠されているのだがブラの方が見事にまる見えなのだ。

「「「きゃーーーーーー!!!」」」
アキトの教育によって羞恥心が植え付けられた妖精3人組は叫んでしまった。
「すまん。」
アキトはそう言ってすぐさままた布団に顔をうずめる。その隙に3人は急いで着替えを済ませる。
「もういいよアキト。」

ラピスの言葉に反応してアキトは今までもぐっていた布団から出てくる。
「今日は私たちが料理をするからゆっくりしててね!!」
ヒスイの明るい声、それはアキトが一緒に居たときとは違う明るい声。それだけヒスイは変わったのだ。
そんなことを想い、アキトはタオルケットの中からでた。3人は真っ赤になりながらキッチンに向かった。

最初のプランとは少し違ってしまったのだけど朝食作りの開始です。
最初にパールがフライパンを出し、それを見てラピスは卵とベーコンを取り出す。
ヒスイはトマト、レタスと昨日つけておいたキュウリの塩漬けを取り出し、トマトを切ってレタスと共に盛り付ける。
もちろんキュウリの塩漬けも他のお皿に盛り付けてある。

ヒスイが盛り付けている間にパールはフライパンを暖め、油を注ぐ。
「はい、パール、ベーコンだよ。」
パールはラピスに切ってもらったベーコンを最初に焼き、その後にベーコンの上に卵をポトンと落とす。
今日はベーコンエッグだ!!!

白身が固まり、黄身に白い薄い幕が出来始める。
「はい、水。」

ラピスは水が入ったコップをアキトに差し出す。
「いっせーの。」
パールの掛け声。じゅわーーという音と共に水がフライパンに流し込まれる。そこへラピスがすばやく蓋をする。
いわゆる蒸し焼きである。ゆっくりとじゅーーという音が静かになり、パールはゆっくりと蓋を開ける。
中には半熟ベーコンエッグが出来ていた。

「よいしょ!!」
パールはフライ返しでベーコンエッグをお皿に盛り付ける。最後にヒスイがご飯を運び、
ラピスはベーコンエッグをお盆に乗せて運ぶ。パールは醤油をはこぶ。
(ソース派の人、塩派の人、ここでは醤油で勘弁してください。)

食卓には4つのイス。赤のチェックのテーブルクロス。そして、並ぶ朝食。すでにアキトは座っている。
「「じゃんけんぽん」」
昨日のシャトルはパールがとなりだったので今日はヒスイとラピスの対決である。
「「しょっ・・しょっ」」
そして・・・・・・
「勝った!!」
ヒスイの勝利!!ラピスは「うーー」とうなっている。

「「「「いただきます。」」」」
4人はもぐもぐと食べ始まる。アキトも最近は自嘲はしていないで素直に料理を食べる。妖精3人もうれしそうにして食べている。
「パール、お醤油とって!!」「はい、ラピス。」

ささやかな朝の営み。アキトの心はとても穏やかであった。

それからは朝の歯磨き。シャカシャカという音が洗面所に響いた。
4人は身支度を整えるとワゴン車に乗り込んだ。アキトは以前はIFSの視覚しか乗っていなかったのだが
訓練で車の運転も習得したので車の運転も出来るのである。

けれども、たとえ運転は出来ても無免許なので偽造証を持っている。ワゴン車は順調に走った。
車内ではクーラーがかかり、快適である。
「りんご」「ゴリラ」「ラッパ」「パラソル」「ルビー」「インコ」・・・・
妖精3人は暇つぶしのしりとりに夢中だった。
ショッピングモールにつくと早速買い物をする。

最初に料理器具を買い、アキトはラピス、ヒスイ、パールに包丁をプレゼントした。他には箸、皿、スプーン、フォークを買った。

最後に洋服。アキトは黒の物と青のチェックのカーディガンを買い、ラピスはブラウスと黒いシースルーの入ったロングの
タイトスカート、水色のベストと赤のネクタイ。他にもワンピースなどのサイズの大きいものを購入。

パールはワンピース、サマードレスをメインとして購入。ヒスイは黒のタンクトップにハーフパンツ、
Gパンに、Tシャツなどラフな格好の服を購入。やはり若いとはいえ女である3人の買い物はかなりの時間を食い、
終わった頃にはお昼時は過ぎてしまい、アキトは3人を連れてレストランへ入った。

4人は食事の後、アキトがデパートで帽子を買いひとつは自分がかぶり、色違いの帽子を3人に渡してから車で家へと帰った。
家についた時間はもう2:54分。おやつ時である。

さっき昼食をしたからと言っても女の人にとっては甘いものは別腹なので4人はおやつを取ることにした。
今日のおやつはソーダにアイスモナカ。初夏にふさわしいのかは別として結構糖分が多そうなメニューである。

妖精3人組は早速嬉々として、袋を空け、モナカを食べ始める。

アキトにはモナカをさっさと食べてしまい舌を刺激してくれるソーダを飲んでいる。

妖精3人はモナカをうれしそうに食べる。
パリッとした表面の皮に中の冷たいバニラアイスに入ったチョコの食感がいたくお気に召したようだ。
ヒスイはそのままかぶりついて満面の笑みを浮かべている。パールはちょっとづつちぎって食べていて、
ラピスはモナカを2つにちぎって食べている。3人とも食べ方は少し違うけれどおいしそうに食べていた。

ソーダを飲み終わったアキトはその3人を見て薄く微笑んでいた。
そんな彼はラピスの唇の端にバニラがついていることに気づく。

「ラピス、クリームがついているぞ。」

そう言ってアキトは指で唇の端についているクリームを掬い、そのままペロッとなめてしまった。

それに驚いたのはラピスである。そう、アキトがクリームを掬ったときに彼女の唇を通った指が
アキトになめられたからである。つまり・・・・・・間接キス。

このことにラピスはしばしポーーーーとなってしまった。
それを見てパールとヒスイはうらやましがって物欲しげにひとさし指を唇に当てていた。
そんなおやつを終えて買ってきたものを整理した。

その晩運命の電話がテンカワ邸に響く。

ピロピロピロピロ
「はい、テンカワですが。どちら様でしょうか?」
「プロスです。ルリさんが地球に戻ってきました。」
「早かったですね。」
「そうですね。では、後ほど。」


翌日は妖精3人組のうれしそうな声に起こされたアキト。
朝食を取り、4人は今日の予定としていた映画に行くことにした。

映画館では4人、いや、3人の妖精たちはかなり目立っていた。それは髪の毛と瞳が要因ともいえよう。
真っ暗な館内となるとなおさらである。

スクリーンの中には情熱的にキスをしている男女の姿が映っている。
その姿を見て真っ赤になるパール。顔を手で覆ってしまったヒスイ。そのキスを熱心に見つめるラピス。
アキトは感慨無くサングラスの下からただスクリーンを見つめているだけだった。

映画が終わり、4人は映画館を出た。今まで暗かった場所に居たせいか強烈な光に視界が少し真っ白になる。
そんな中アキトは平然としている。本来ならば五感が無いの別に気にしていないのだ。

そのあとは近くをぶらぶら歩いていた4人。ついた先は公園。噴水の近くに子供が居て涼んでいた。
周りには鳩が居て、その近くにはクレープ屋が来ていた。
「あれはなんなんですか?」
パールの控えめながらの問いかけ。

「あれはクレープって言って甘くておいしいんだよ。」
「それじゃあ食べようよ!!!」ヒスイの元気な声。

アキトは頷くと3人を連れて店であるワゴン車で注文をして、買うと4人は早速食べ始めた。
生地に塗られたホイップクリーム、イチゴジャム、チョコレイト。
すべてが口の中で混ざり合ってなんともいえない甘い味が口に広がる。アキトは五感が衰えているせいもあってか普通に感じた。

3人はその味に驚いた用であったが今はもうおいしそうに食べている。
ラピスはクレープを食べながら気づいたことがあった。それは、アキトの唇の端にちょっぴりとクリームがついていること。
(そうだ!!!クリームを取ってあげよう!!!)

ラピスにとってこのことはまさに名案であった。けれども、ラピスの頭では更なる出来事が起こっていった。
それは、先ほど見た映画のワンシーン。男女が情熱的なキスをするシーン。

そんな場面が浮かんできたからさあ大変!!ラピスの血液の温度はすぐさま上昇して顔が真っ赤になって
まるでりんごのように赤くなってしまった。その様子をみて、パールは首をかしげ、ヒスイはラピスの顔の前で手を
振ったのだがラピスは無反応。頬をラピスの視界はアキトの唇に注がれていた。

ラピスは意を決して作戦を決行した。ラピスは早々とクレープを平らげてベンチから立ち上がる。アキトの方を向く。
「アキト・・・・」
ラピスの問いにアキトはラピスのほうを向いた。そこに間髪居れずにラピスは唇を寄せた。

ぺろりラピスはアキトの唇の端についていたクリームを舐め取った。みっしょんこんぷりーとである。
しかし、ラピスの行動はそれだけでは終わらなかった。更にアキトの唇に舌を這わせ、アキトの口腔に侵入、
ぺろぺろと口腔をひと舐めするとその唇をゆっくりと離した。

麗らかな初夏の日差し、はしゃぎながら噴水のそばで無邪気に遊ぶ子供達、それを見ている奥様方。
そんな中で行われたラピスのファーストキス(ディープ)なんとも言いがたい空気が周りを包む。

「「ああーーーーーーーーーー」」パールとヒスイの非難の声。
しかし、アキトとラピスはそのことに気づかないかのように固まっている。次第にアキトとラピスの顔が赤く染まってゆく。
「ラピス・・・・おまえ・・・・」
「アキトに・・・キスしたかったから・・・・」
なんとも子供らしいような考え。しかし、ラピスは一人の女として、キスを望んだ。それは紛れも無い事実。

「ずるいラピス。私もしたい!!!!」「私も・・・・・・・」ヒスイとパールの言葉に更に固まってしまうアキト。
ひそひそ話をしている奥様の姿がアキトの視界の中に入ってくる。アキトは早速この場を去ることを決定した。

日々平穏
(世間では火星の後継者がなんだとかヒサゴプランの強襲だとかなんだか物騒だね。
ルリ坊もしゅんとしていて、これからが大変だね。
艦長としての責任、任務の遂行、敵は強い。まあ落ち目の会長もがんばってるみたいだしね。)

そんな思案している最中に店の扉が開く。
「お客さん、まだ準備中なんですけど・・・」
現れたのはブラウンのボサボサの髪、丸い淵なしのサングラスをしている。全身を黒で固めた格好、
ホウメイにとってその人物は忘れられない変わり果てた一人の弟子の姿であった。

「お久しぶりです。ホウメイさん。」
「ああ、お前が生きているだなんてね。ルリ坊はさっき出て行ったよ。」
「ここに来ていましたか・・・・」
「それで飯を食べに来たんだろ。さあ、さっさと中に入りな、今回ばかりは特別だよ。」
「すみません。それと、連れも居るのですけど。」
「いいよ。あんたの連れだ。気にしないで入んな。」

アキトはホウメイの言葉を聞いて店内に入る。
その後に続いた入ってきたのはピンク、シルバー、ブラウンの髪、金色の瞳、ネルガルの作り出した妖精。
「随分とかわいい子を連れているね。」
「この子達は火星の後継者に捕まっていたのを救出したんです。」
「そうかい、そうするとここ最近のコロニーの襲撃はあんたがやったのかい。」
重い空気の中での沈黙。
「・・・・・そうです。」

「けど、お前にも訳が有ったんだろう。そうでもなけりゃそこまで人は変われないよ。」
アキトはカウンターの席に座る。ラピス、ヒスイ、パールも座ってメニューを見ている。
「俺はラーメンを。」
「私は火星丼」
「私は・・・チキンライスでいいです。」
「私はお勧めで!!!!」
「はいよ。」
ホウメイが調理をはじめ、店内ににおいが広がり始める。ラピスとパール、ヒスイの3人はその調理の仕方を見ている。
「どうしたんだい??そんなに興味があるのかい?」コクンと頷く3人。
「そうかい。後でレシピのほうをあげるからしっかりとテンカワに食べさせな。」
「もちろん。」「がんばるよ。」「食べてもらいます。」
ラピス達がホウメイの料理話をしている間に料理は完成して、それぞれの料理がテーブルの上に置かれる。

「「「「頂きます」」」」
4人は自分の持っていた箸をケースから取り出して食べ始める。
「おいしい。」ラピスの率直な意見。
「そうかい、そう言ってもらえると作った甲斐があったって言うもんだよ。」
「しっかりとご飯が一粒一粒分かれている。」
「スープがおいしいよ〜!!」ヒスイの注文したお勧めはラーメンセットであった。ミニラーメンとチャーハンのセットである。
「流石ですね。ホウメイさん。」
「伊達に長く料理人をやってるわけじゃないからね。」

そう言ってホウメイは自慢げに胸をはる。アキトの瞳から一滴の涙が流れ落ちた。
「アキト・・・泣いてる?」

「えっ!!本当だね。ラピス、何で泣いているんだろ。」アキトは流れ出た涙をぬぐう。
「久しぶりにホウメイさんと話したからかな?さあ、気にしないで食べよう。」
その言葉を聞いて再び3人は食べはじめた。

「「「「ご馳走様」」」」
はし、スプーン、蓮華をそれぞれ置いて4人は一休みする。
「はい、オチビちゃんたちに贈り物だよ。」

そう言ってホウメイは一冊のほんを取り出す。
「これは今まで私が覚えたメニューの創り方の載った本だ。大切にして使いなよ。」
見る見るうちに喜びが妖精3人の顔に表れる。
「「「はい!!!」」」

そして、アキトたちは日々平穏を後にした。店から出ると空はすでに赤くなり始めている。
アキトは妖精3人組を外に待たすとひとつの店に入った。店内にはシルバーアクセサリが並んでおり、
カウンターでは職人だと思われる老人が居た。アキトは店内を見回す。ブレスレット、ネックレス、指輪。様々な商品が並んでいる。

「この指輪を4つ買いたいんですけど。」
「いいですよ、名前の刻印もいたしますが・・・」
「アキト、ラピス、パール、ヒスイでお願いします。」
「はい、分かりました。明日ここに取りに来てください。」
そう言って老人はメモを渡してくる。そのメモをアキトは受け取った。
「分かりました。」
アキトは急いで店内から出た。店の外では3人がしりとりをしている。
「さあ、行くよ3人とも。」

「「「うん」」」駅にたどり着いた3人。
「ちょっとここで待っていてくれ。」そう言うとアキトはトイレに入っていく。

次にアキトが現れたときは黒のマント、バイザー、そして戦闘服の復讐者の格好をしていた。
「さあ、行くぞ。」こくんと頷く3人。ゆっくりと加速をはじめる電車という名の箱。

その中でパールとヒスイは込み合った車内で座席を確保して座っている。
アキトはドアの近くに立ち、直立不動の状態を保っている。そのアキトの傍らにはラピスが立っている。
しかし、手はしっかりとアキトとつながれていた。アキトとラピスの視線の中に失踪する一台の電車が入ってくる。
そして、視線の先に彼女は居た。瑠璃色の髪、金色の瞳、ワンピースを着ていて、髪をツインテールにしている女性。

ホシノルリ

アキトの無表情が一時的に消え、笑みを浮かべる。それは自分の養女が美しくなったからなのか、
それとも無意識に微笑んでしまったのか、それは誰もわからない。
「アキト・・・・あの人が、ホシノルリなの?」
「そうだよラピス。あの子がルリちゃん俺の前の家族。でも今は違う。今は俺一人だ。」
アキトは無表情のままで答える。
「私が居る。」
ラピスの小さな答え。
「ありがとう。」
静かな沈黙

電車は走る。まるで人の運命のごとく。



つたない文章が見られた。やはり初期作品である。コメディーに走ったり、シリアスに走ったりという誠意を感じる。
私自身が読んでいて、目を見張るのは文章量であろう。やはり、勢いが無ければならないな。


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