「藍、愛、哀。アイが一杯。」

ルリはアイばかり出ているウインドウゲームに興じていた。
軍部の中でも最新鋭であるナデシコは大掛かりなコンピューターオモイカネの存在により、
基本的に戦闘以外にはオペレーターと通信士、それに艦長だけブリッジにいなくては成ら
ないということで操舵士のミナトはお寝坊さんだった。

そう言ったわけでブリッジにはルリとメグミ、ユリカの3人が居た。
「ふぁー、暇だね。」
そう言ってコンソールに突っ伏すユリカの寝ぼけた頭をルリの報告がたたき起こした。
「敵、攻撃?」
「え?どこどこ?迎撃用!!」
「しなくていいです。」
ラピスの止めの言葉によってユリカは言うのを止められた。

「ディストーションフィールドジン長に作動中安定。フィールド順調。」
あさっての方向から来た木星トカゲの攻撃の光線はあっさりとナデシコの
ディストーションフィールドに跳ね返され、かなたへと消え去っていった。

知らない追憶
艦長たるユリカはルリの席まで降りてきてルリの隣でフィールドで弾かれる光線の様を見ていた。
「先の隕石コロニーでの戦い以来木星トカゲが本格的にこちらに攻撃をしてこないのは
制空権を確立しているか政権内に入るまでこの船の能力を験すための、いわば挨拶程度名ものだと思うんですが・・・
艦長はどう考えてるんですか?」

「あなた、小さいのにすごいわね。」
「私、少女です。」
「そうか。それまで私暇なんだ。」

ユリカは安心したかのように頬杖をついた。そんな彼女の前にプロスのウインドウが開く。
「艦長、そこで何しているんですか。艦長が着ないと始まらないんだから、着替えて、すぐにきてくださいよ。」
「はーい。」
気のない返事をしつつブリッジから退出するユリカをルリとメグミは見送ることも無く、
メグミは雑誌を見てルリはゲーム興じた。

ナデシコは基本的に軍属となっているのだがその根本はネルガルとノウンの2社が地質的には権力をもっていて、
契約もお給料もネルガルとノウンが負担して、僅かに軍が資金と停泊ドッグを提供することとなっている。

そんななかネルガルの契約書にはひとつの制約があった。
それはお葬式である。いまや木星トカゲと言われる未知の敵がはびこる宇宙で生活と研究、
建設は死と隣り合わせの仕事であり、それなりの危険手当ともしもの時のお葬式の指定もされていた。

この間のコロニーの崩壊によってコロニーの生存者は僅かに3名だけという最悪の事態に陥り、
プロスペクターは家族への保険金の計算をして神父、お坊さんなどの役割を一挙に引き受けている
ユリカを筆頭としてナデシコでは見ず知らずの人の冥福を社員だからというわけで祈り、戦いの無い間にお葬式を行っていた。


お坊さんの役割であるユリカはきちんとその役割であるお坊さんの格好をして
その他の人は黒いスーツに黒いネクタイ。または女性は黒の喪服を着てその場に参加した。

「何で私がこんなことしなくちゃならないの?」
「そりゃ、艦長だからさ。地球には様々な宗教、文化、お葬式がある。お坊さん、
神父さん、神主とかのそう言った人をわざわざ一隻の戦艦に乗せると成ると
たまったものじゃないから艦長が代理をやる。って言うことなんだってさ。」

ジュンは人差し指を立てて説明した。
「はい。ネルガルでは軍の物とは違い個人の思想、宗教の自由と死んだ後のアフターケアとして、
その人の願いを出来るだけかなえるという得点がありましてですね。はい。」

巫女服で祭壇にお弔いをする4人。その中には女でもないジュン、ゴート、プロスの3人が
混じっているのはユリカの監視でもあり、お葬式を終わらせるためであった。

「はい、次が最後です。がんばりましょー。」
「はーい。」



最後の葬式が終わりブリッジへと戻ったユリカはうなだれ、コンソールに突っ伏していた。
「艦長、頭。」
隣にきていたルリの注意と同時にユリカの頭の上に乗っていた帽子のようなものが音を立てて落ちた。
「お葬式、まだあるんですって。」

「俺の骨を海に捨ててくれ。」
「私はお星様になってみんなのことを見守りたい。」
たくさんの展開されたウインドウの中で故人たちが自分達の主張を語ってくる。

「はあ、気持ちはわかるけど。」
「お葬式はまだありますよ。」
たくさんのウインドウがユリカの頭上に表示され、ユリカとルリ、ラピスはそのウインドウが語る死者の残したものを見る。
「なに考えてるんだろう?」
ラピスはウインドウをちょんちょんと人差し指で突っついた。
「私に出来るのは、お葬式、お弔い?」
「でも、冠婚葬祭だから私の結婚式やるんだったら艦長が神父か神主役もやるのかしら?」
ラピスのほんの一言がユリカの心の中で響いた。
「うわーん。」
「ラピスさん、結婚するんですか?」
「1年後なら私も結婚できるよ。」
普通に返されてルリは気になっていたことを聞く。
「相手は?」
「アキトさん。
」 ラピスは紅くなりながら答えた。それにつられたのかルリも赤くなってしまった。

翌日

「葬式が終わったら宴会だ。葬式料理に葬式饅頭。死んでいった奴らの最後の宴会なんだ。
地球は狭いようで広い。その様々な土地にはそれぞれの味がある。
自慢じゃないが当店ナデシコ食堂には地球3百種類の調味料がある。しっかりやっておくれよ。
あとカザマ、トムヤンクンにはナンプラー。」
「は、はあ。」
「ナンプラーって言うのは魚で作った醤油。さあ早くいきな。お前さんよりテンカワとラピ坊の方が早いよ。」
「はい。」

ナデシコ食堂ではホウメイの指示の元料理が作られていたのだがあまりの忙しさのため急遽人手を募集し、
暇であり料理がある程度できるアキトにラピス、イツキが借り出されホウメイガールズと共に食堂内を奔走していた。

「それでは今日も参りましょう〜。」
「はーい。」
通路内を走るユリカとジュン、ゴートとプロスの4人の前には迫る一団があった。
「葬式料理です。どいてくださーい。」
イツキとホウメイガールズが声を張り上げてくるのをみて4人は通路の端に横並びになって回避する。
カートを運んでいく人を見てユリカはその中でアキトの姿を見つけた。
「アキト。」

喜び勇んで彼らを追跡しようとするユリカの首根っこをジュンが抑える。
「何やってるんだいユリカ。艦長としてお葬式に行かなくちゃ。」
ジュンはずるずるとユリカを引きずり、それをプロスが手伝う。

「さあ、行きますよー。」
「アキト、酷いよ。」

◆▽◆

「はあ、疲れた。」ユリカは葬式が終わるとブリッジに戻り昨日と同じように突っ伏していた。
「ルリちゃん、艦長ってなんだろうね?」
「私が答えることは出来ませんが、データでなら判ります。オモイカネ、ライブラリより検索。艦長に付いて。」
「ルリちゃんすごい。」

「何時頃の艦長が良いですか?」
「ああ、ここ100年で。」
「わかりました。検索開始します。」
エステバリスのキャラクターがウインドウで踊り、表示が変わる。
「でました。」
「へ?」

間抜けながらにユリカは答えた。そのユリカに何もせずにルリはつむぎ始めた。
「ここ100年、第一次世界大戦後名艦と呼ばれる存在は出現していない、
戦闘がコンピューターにより行われている今現在では艦長一人で艦の優越が
決まるわけではないので艦長とはクルーの不平不満を気持ちよく解消させる役職となっている。

旧世代では沈着冷静で頼りがいのある老人タイプであったが近年では若者のやる気を出させるため
美少女タイプ、美少年タイプなど、様々なタイプが現れた。

「それって?」
「それって、誰でも良いってことじゃないかな?」
「ふえーーん。」
ユリカがブリッジを出て行ったあとルリはメグミの隣にたった。
「メグミさん、意地悪ですね。」
「そうね。生きてくためには意地悪にもなるわ。」

今日も敵の光線はフィールドに遮断されあさっての方向に飛んでいった。

◆▽◆

「最近艦長見ないね。」
「そうですね。」
メグミの発した言葉につられて気づいたルリ。
昨日も今日も朝ごはんをテンカワ、ラピス邸となっている部屋で食している彼女は
最近食事というものが慣れてきたので食べることとラピスアキトと一緒にする三つ巴のオペレート対決、
それにイツキとホウメイの料理教室に意識を集中して居たためユリカのことをちょっぴり忘れていたのだ。
「探してみましょう。オモイカネ、艦長を検索。」
ウインドウに表示されるナデシコの艦内の概略図にひとつの赤い反応を示す。
「いた?」
「いえ。これはミナトさんです。」
ミナトはトーテムポールが置かれている自室のベッドで寝返りを打った。
「いました。瞑想ルームです。」
ルリのナノマシンで作られた補助脳に監視カメラのデータが送られ、映像としてルリの脳裏に映し出される。
そこでユリカの状況がわかったルリは言う。

「艦長、お篭もりです。」
「何やってるのかしら?」

そのことは瞬く間にプロスペクターの耳に入り、ジュンに伝えられた。
「お篭もり、ですか。」
「はい。今のうちに艦長には悩んでいただこうと思いまして。」
「それは職務怠慢です。今日は僕がやりますが明日は引きずり出してください。」
「はい。」
プロスが了承するのを確認するとジュンはお葬式へと向かった。その一日はジュンが艦内を奔走した。

夜中クルーの大半が眠っている時間帯にアキトは又4畳半の部屋にいた。今日はラピスも一緒である。
その彼らは難しい顔をして表示されているデータのウインドウを見る。ウインドウに踊るのは活字で書かれた報告書。

「木星衛星イオが消息を絶つ。か。」 「イオは以前の時は稼動にはいたらず機動すら出来ないジャンプユニットが搭載され、
人は居なくて北辰達の管理の対象でもありました。」

「そうだな。しかし木星コロニーの1つが消息を絶って同じ時にこんなものが見つかるとは思えないな。」

そう言ってアキトが視線を向けたのは火星の双子発見?という見出しに火星の公転軌道上、
火星の反対側に火星よりも地球よりも小さいがつきと同じくらいの新惑星を研究者が発見。
と書かれているウインドウであった。

「火星に木星、遺跡にユキト、イツキさん。あまりにも変化が激しい。」
「しかし、変化してこそ時がたった証拠。」
「それが難しいところだ。」
そう言ってアキトは苦笑しながら自分の白のパジャマとおそろいの物を着たラピスの頬をなでた。


アキトとラピスは今日も朝ごはんの用意をしていた。
そのなかで一人増えたのはサラダのドレッシングを作っているイツキの姿である。
「朝早く来るから何かと思ったら。」
「手伝ってくれてすみません。」
ラピスはそう言って卵焼きをひっくり返した。

「毎日食べさせてもらってるんですから気にしないで。」
そうしている部屋インターホンの電子音が響いた。
「はい。どちらさまで?」
一番手が空いているアキトが応対する。
「僕だよ。ジュンだ。」
「ああ、ジュンか。今あけるよ。」
入ってきたジュンの顔は少々疲労しており、あきれても居た。
「今日利恵クレーションルームに居座って考えてるユリカを引っ張り出すから着てくれ。」
「俺がか?」
「ああ。最悪の場合は武器をつきたててもかまわない。
わがままだけでは本来軍艦では艦長なんてやってられない。じゃあ、今日の9時にきてくれ。」
「わかった。」
玄関先に入っただけでジュンは用件をいい去っていった。

◆◆◆

「煩悩、御釈迦様は菩提樹の下で悟りを開いた。私も悟り、開きたい。」
ユリカはロボットを横に立たせて一人瞑想にふけっていた。
「そんなことをする前に自分のすべきことをしろ。」
アキトは彼女の脇に居たロボットの操作を行い、退避させる。

「アキト、でも、あなたと私がどうすればいいのか?艦長ってなんなのか考えなくちゃ成らないの。」
言い寄ってきてすがるユリカに肩を落とすアキトとジュン。
「ユリカ、昨日は艦長代理をやったけど今日は君があるんだ。この一週間は君が居ないためにプロスさん、
ゴートさん、それに僕が葬式をやったけどまだ残っているのはたくさんある
。だから君にはこれから最後のお葬式までしっかり勤めてもらうよ。」

「えー、そんなあ。」ユリカの声にうんざりとする2人。
「わかった、艦長として自分のすべきことをするわ。でも、私とアキトの関係が・・」

「俺はお前を艦長としている。そして一人の女としてみるとお前は嫌悪している。
自分勝手でもあり、艦の長たる仕事をせずにここでただ悩む。
一週間も悩んだんだ。もう期は熟している。さあ、葬式に行くぞ。」

アキトの言葉が終わり呆然としているユリカの脇をジュンとアキトが固めて移動させようとした。
そんな彼らの前にいきなりウインドウが開く。

「艦長、反乱です。」
「ネルガルの責任者出てこーい。」
「我々はネルガルの悪辣さに断固として抗議する。」
格納庫で行われる抗議行為。ウリバタケがウインドウに移され、後にはそれに同調した
クルー達の作った旗などが掲げられたエステバリスの姿が会った。


ユリカが制服に着替えてからブリッジにきたとき、緊張がブリッジを満たしていた。
「ごめんねえ。」
ヒカルはそう言ってその場に居たミナトとラピスに銃を向け、リョウコはメグミとルリとイツキに銃を向けていた。
「どうしたんですか?」
ユリカがこの反乱の発起人であろうウリバタケに尋ねる。
ウリバタケは彼女の前に一枚の紙を出した。

「この契約書の一番下を見てくれ。」
「こまかいですね。」
そういってユリカはその細かい文字の最後の項目を見た。
「なになに?男女間での交際は艦内の風紀維持のため、手を繋ぐまでとする。」
「そうだよ。いい年こいた奴がおて手繋ぐだけってか?ここはナデシコ幼稚園か?」
「まあ、手を繋ぐだけってねえ。」

ミナトはウリバタケの言葉を聞いてなんとなく判ったのか首をかしげ、
イツキはラピスとアキトを交互に見て頬を赤らめる。そんな彼らの端っこにはヤマダがつぶやいていた。

「手を繋ぐのは最高の男女の交際方法じゃないのか?」
そんな呟きを聞いて居る人は無くウリバタケは続ける。
「若い二人が見つめあい、見詰め合ったら、」
「唇が。」
「若い2人の恋は純なるが不純」
「せめて抱きたい抱かれたい。」

ウリバタケとヒカルの若い二人の公爵が終わったと同時に水をさすものが居た。
「そのエスカレートがいけないのです。」
あたりが暗くなりスポットライトが当てられたプロスペクターとその後ろに立つゴートの姿が暗いブリッジを見下ろす。

「若い二人が抱き合って、付き合い始めて結婚し、出産すれば、お金かかりますよね。」
「てめえ、卑怯だぞ。」
「まあ、なんとでも行ってください。」
プロスはそろばんを仕舞い、契約書を掲げる。

「これがみえねえか。」
一斉にブリッジに集まっていたクルーの銃先がプロスに向かう。
それに対してプロスは余裕顔で契約書で対抗する。そんな中一人の女性が彼等に楔を打った。
「でも、らぴらぴとアキト君、キスしてたよ。」
「え?」

一斉に視線が壁に寄りかかったアキトに向かう。
「テンカワ、お前ラピスちゃんとキス、したのか?」
アキトは隠れていたプロスの後から出てスポットライトを浴びる。鬼気迫るウリバタケの尋問に答えるアキト。

「した。」
「てめえ。」
一部のクルーの銃先がアキトに向かう。彼らはルリラピファン倶楽部の熱烈な会員であった。
「俺はノウンの所属であり、出向社員です。ネルガルの契約書と俺とラピスの契約書は内容が違い、
武器の所持と男女関係には問題はありません。それに公衆の前でキスしてたり性行為をすることが
通常であるといった人は少ないはず。隠れてすればいいんですよ。それとも。」

アキトはスポットライトからはずれ、下の階に飛び下りる。
そしてミナトとラピスを拘束しているヒカルをどかすとラピスに歩みを寄せる。
見詰め合う2人。ラピスのあご下に向かったアキトの手は彼女を捕まえ、逃がさない。
ゆっくりと近づく2人の唇。しっとりとした乙女の唇はアキトの、男の少々かさついた唇を受け止める。

離れる唇。そしてラピスはアキトの胸元に収まる。

「こうして見せ付けたいんですか?」
嘲笑を向けられる他のクルーは呆然とその姿を見たまま固まっていた。
「ご馳走様(です。)」

2人の間にたまに行われる好意に慣れてきていたミナトとルリの言葉と同時に振動が起こる。
それと同時に今までディストーションフィールドで跳ね返していたものとは違う出力の強いものがナデシコを揺さぶったのだ。
「ルリちゃん。」
「今までのものとは違う。迎撃が必要。」
それを聞いてユリカはほとんど倒れているクルーを見渡して言う。

「確かに男女関係は大切です。でも、戦わないと死んじゃいます。
そしたら又お葬式。わたし嫌です。そうせやるならお葬式より結婚式がやりたいんです。」

「エステバリス隊発進。」
カタパルトから出るエステバリスの前にはたくさんの艦隊軍。
以前自分が対決したものとは違い単純であろうその艦隊軍を見渡し、
その後ろにあるものに視線が向かう。


赤い星と呼ばれ、テラフォーミングによって青くなった星、火星。そしてアキトは機体の中で機械のように戦闘を開始した。


前回の反乱も、悟りもぜーんぶ無くなり、契約に付いての改善がされて、ナデシコは進みました。
その間にプロスさんがこめかみを抑える場面を数多く見ましたが、まあ、自業自得・・・・・なのかな?

交錯


バッタ達が作り出す雲霞に向かってゆくナデシコのエステバリス隊。
「よーし、行くぜ。」
リョウコが先陣を切ってゆく。追跡するそのバッタを光るが撃破する。
「ははは。お花畑!!」
ヒカルのディストーションフィールドによって花開いたバッタは真空を爆発の花畑へと買えた。

「「はははは」」
笑うリョウコとヒカルの前に唐突に現れるウインドウ。
「ふざけていると。やられるわよ。甲板一枚をへだてたところには真空の宇宙。
心をもたぬ虫をほふる時、わが心は興奮に震える。なぜ?」
さらに先行しながらイズミは言う。
「冷めた心。悪いわね。負けるわけには行かないの。」
イズミのいきなりの言葉にリョウコはエステバリスを操作しながらうるさるがるかのように言った。
「変な奴変な奴変な奴。」

◆◆◆

「まったく元気だ。」
彼、テンカワアキトはそう言ってウインドウでイツキと通信回線を開いたまま呟いた。
「まあ、良いじゃないですか。ここで足止めを食らっているわけにはいかないですし。」
「ははは。俺様も行くぜ。」

「へ?」

イツキの呆然の言葉を無視してヤマダ機が一気に加速する。
「いままで養生していて戦う意欲があったのに戦えなかった。だからストレスがたまってたんだろう。好きにしてやれ。」
「は、はあ。」
「こっちも行くぞ。」
「はい。」
そうやってイツキとアキトの2機も加速してバッタに向かっていった。

バッタがある程度消えたとき、そのバッタを巻き添えにして光がエステバリスに向かって放たれた。
「なに?」
驚き、回避行動を取った全員がその光のもとであろう宙域を見た。
そこに居たのは火星の制空権を握っている木星トカゲの艦隊軍であった。
どんどん吐き出されるグラビティーブラスト。物体を捻じ曲げる実体無きその破壊の矢に対して、エステバリスは回避した。

戦況を見ていたフクベの脳裏では初めてチューリップと出会い、戦い敗退した時の失策がビデオの再生画像のように映っていた。
「艦長、エステバリスを回収したまえ。」
「いいえ、必要有りません。」
「アキト、がんばって。」
ユリカはラピスに自分がいおうとした言葉を横取りされ、歯噛みした。

しかし、フクベはユリカに言った。
「し、しかし。」
「敵にはグラビティーブラストがある。といいたいんですねえ。しかし心配ご無用。
そのための相転移エンジン。そのためのディストーションフィールド、そのためのグラビティーブラスト。
以前のものとは戦い方が違うのです。お気楽におき楽に。」

フクベはプロスのその言葉に口をしかめつつ再びウインドウに振り返った。
「そんなことでは負けたとき君達はどうする?助けてくれるものが居ない場所でどうする。」
フクベの呟きの様なこの言葉は誰かに聞かれることは無かっただろう。そう。桃色の髪の少女がフクベを見張っていなかったら。

戦艦軍に接近して拳を前にして特攻しようとするエステバリス。その彼等にルリからの通信が入る。
「敵戦艦フィールド反応増大。」
「なに?」
トランポリンに弾かれたように弾き返されるエステバリス隊。
そのディストーションフィールドを感じ、イズミが言った。

「いよいよ死神が見えてきたわね。」
「見えん見えん。」
戦艦のディストーションフィールドの外側で滞空する3機。
「で。どうするんだ?」
「敵のフィールドは強いしねえ。」
ヒカルのため口で考える2人。その彼等に一枚の大きなウインドウが開かれる。

「どけどけどけ。ガイさまのウルトラ技を見せてやるぜ。」
「うわあ。」
突っ込んできたヤマダ機を回避する3人。そしてその間を神風のように通り過ぎ去ってゆくエステバリス。
「うおおおおおおおおこんじょーーー」

特攻して拮抗する戦艦フィールドとエステバリスのフィールド。しかしその勝者は目に見えていた。
フィールドの強さが判ったヤマダは一旦戦艦から離れた。マダは体制を整えて3機の近くに戻ってくる。
「くそ。」「なにやってんだ。」「かっこよかったですけど間抜けですね。」

「これはだな!!」
言い訳体制に入ろうとする前にウインドウが開かれる。
「死に水は採ってあげるわよ。」
「俺は死なぬ!!それにしてもなんて強いフィールドだ。困ったもんだぜ。」
「さっき俺たちがやっただろう。」
うんざりとしたようなリョウコの映るウインドウを睨む山田。
問答していた彼らにイツキとアキトの2人も集合する。

「拳でフィールドは突破できない。どうすればいい?」
イツキの声が全員の耳に入り、頭をかしげる。
「こうすればいい。」
その声に今まで悩んでいた全員の視線がアキトの下に向かった。
今まで持っていなかったブレードを胴から射出して取り、それを付く立てるように構えるとフィールドに向かっている。
「特攻?」
「いえ。入射角を考えてイミテッドナイフを装備しているんです。拳よりももっと鋭角なナイフ状ならフィールドも貫ける。」

「なるほど。」
ヤマダが頷いたと同時にフィールドを突き抜けたナイフは戦艦に到達して、傷跡を作った。
そして再度行われた拳の攻撃によってそのナイフで傷をつけたところから火の手があがり、
他の戦艦たちを誘爆しながら爆発していった。
「敵80パーセント消滅。降下軌道取れます。」
「どうぞ。ミナトさん。」
ラピスから離れたウインドウはミナトの前に止まる。
「さんきゅ、ルリルリ、らぴらぴ。」
「どう致しまして。」
「たいしたことじゃ有りません。」
ルリとラピスが言い終わってからゴートが言う。

「その前にエステの回収。」「もうとっくにやってるわよ。」

◆▽◆

エステを輸送機に乗せて整備班に任せたアキトは自動販売機の前に立ち。カードを入れようとした。
そのカードを横にどけて違うカードが入れられる。
「どれにしますか?テンカワさん。」
そう言ってイツキはボタンのパネルに手を近づけた。
「いいんですか?奢りなんて。」
「良いですよ。」
「なかなかやるねあんた。」
そう言ったリョウコの隣でヒカルも続ける。
「驚いたよ。こーれくらい。」
ヒカルがつけていたパーティー会場で使われるような眼鏡に付いている目玉がびょーんと飛び出した。
「それはどうも。じゃあ火星ソーダをひとつ。」
「判りました。」
そう言ってイツキはボタンを押した。

「火星圏内に入ります。」
「ちょーっと熱くなるわよ。」
ナデシコの船体がその身を降下させる。ゆっくりと下がっていくナデシコに見えるのは虹色の物。
「あれってなんですか?」
メグミの問いにゴートが答える。
「ナノマシンの集合体だ。」
「なの?」
ゴートの答えでは理解できなかったメグミにルリが言う。
「ナノマシン。火星の大気圏を地球上と同じようにするためにナノマシンを用いたんです。」
「そう。ナノマシンは宇宙から降る有害な放射能をさえぎり、光合成を行ったのです。
そして彼らはその恩恵を受ける人がいなくても未だに活動しているのです。」
プロスの言葉に納得したのかメグミは再び前に振り返った。
「ナノマシン、第一層通過。」

艦内にナノマシンの虹色の光が侵入してくる。それを見てミナトは口を開いた。
「たとえナノマシンが体内に入ったとしてもトイレででる。だから人々はこの火星に自分の未来を託した。のかな?」
ミナトがそう言ってラピスはウインドウを開かせていた。


「重力制御を忘れていたのか。」
アキトの呟きは誰にも気づかれなかった。しかし、彼の呟きは現実物となった。
ゆっくりと今まで立っていた場所に足を立てなくなる。
イツキから受け取った缶は自分達の天井であった場所に向かおうとしていた。

「重力制御を、忘れて欲しくなかったな。」
そのアキトの呟きは敵うことも無く、重力が強くなり、床と天井が反転してアキトは一機に天井に降り立った
。 その他のパイロット達は天井となった床の自動販売機に掴り、耐えていた。
「こっちに来たらどうだ?」
アキトの問いに苦し紛れにリョウコが答えた。
「あたしは回転している間に付いて頭を痛くしたくないんでね。」
「そうか。」
アキトは何事も無いようにその様子を見ていた。
「だめ、かも・・」
イツキが力尽きて落ちてくる。お尻から落ちるイツキは痛みに備えたがその痛みが来ることは無かった。
ゆっくりと強く瞑った目をあける。そして視界に入ってきたのはアキトの顔であった。
「大丈夫か?」
アキトの問いには答えず、イツキは紅くなってしまった。


重力制御が自動で行われるブリッジに以上は現れず、ラピスはウインドウに映るアキトのイツキの対応と、
イツキの反応を見て目を鋭くするとラピスは重力制御を行った。


重力が瞬く間にもとの通りに戻る。それを感じたアキトはすばやくイツキを抱えたまま反転した。
「まったく、重力制御を忘れるだなんて艦長の指示不足だな。抗議だったら艦長にしてやれ。」
アキトはイツキを立たせて格納庫で倒れる整備班に向かっていった。
重く、落下してきて怪我をさせる可能性があるコンテナとエステバリスの輸送機はしっかりと床に固定用アーム
、又は磁石内臓のタイヤを装備していたため特に被害には陥らなかった。
こう言ったことにしっかりと配備されていることにアキトは感心しながら、
視界に端っこに置かれたノウンのコンテナの無事を確かめるとブリッジに向かった。


「これより揚陸邸ヒナギクに地上班をつくり、救出を開始する。」
「まず、地上班を編成する。」
「あの、ここでノウンの仕事でユートピアコロニーに行きます。」
アキトの申し立てにプロスはコミュニケを弄った。ウインドウに出てくるのはノウンとの契約内容の最後の文章であった。

「そうでしたな。ユートピアコロニーはテンカワさんとラピスさんの故郷でもありますからね。」
「そう、故郷を見る権利は誰にだってある。」
アキトはその思わせぶりな言葉を口にしてからフクベを見上げた。
その視線に気づいているのかは窺い知れないがフクベはわずかに目を細めた。
「それと、今回は俺とルリちゃんで行きます。」
「それはどうして?」

プロスはアキトの言葉に驚いたようでアキトに聞いた。
「ルリちゃんも11歳とは言え、オペレーターの仕事ばかりして
いちゃ不健康です。たまには何処かにでかけないと。さ、行くよ。」

ルリはイスにちょこんと座って、火星が映るウインドウを見ていたのだが、いきなりのことで驚いた。
「私は別にここにいたって良いんですよ。」
ルリが普通のアサルトピットより大きめに作られたアキト機のアサルトピットに入る。
「そんなことじゃないさ。俺の心の問題さ。」
そう言ってアキトもピットに入ると装甲を閉めて、操縦を始めた。
ピット全体に映し出された格納庫。アキトは機体をカタパルトに移動させると重力波によって映し出された。
エステバリスを駆って、アキトは火星の大地に消えていった。


「らぴらぴ、心配じゃないの?」ミナトの茶化すような目に振り替えずに、ラピスはウインドウを見た。
「いいえ。でも、心配です。」
ラピスの視線はウインドウに注がれていた。しかし、そのウインドウに映っている画像は
ミナトとメグミには疑い知れなかった。ラピスは目を吊り上げてそのウインドウを見ていた。
そのことを不思議に思うミナトではあったがそのことは気にしていなかった。

そして、ラピスが見ているウインドウに映っていたのは休憩をとりたいといって
休んでいるはずのイツキとアキトに同行していったルリ、
その2人にはさまれながらエステバリスの操縦をしているアキトの姿が映っていた。
「ルリさんだけだから許したのに。」
そう言ってラピスはぷーと膨れた。


「ユートピアコロニー、まだなんですね。」
ルリはそう言ってアキトに振り返った。
「まだのはずだよ。でも、チューリップが大きく見え始めてるからね、かなり近くなったよ。」
アキトはそう答えて、進行方向を見た。そうして無言の時を過ごすはずであった彼らではあったが、そうも居かなかった。

「懐かしいです。」
その声に驚き、「へ?」ともらすルリと普通に後に振り返るアキト。
「小さいころに居ただけですが、懐かしいような気がします。」
そういってうっとりとウインドウを見るイツキ。彼女のもとに視線はあつめらっれていた。
「何で乗ってるんです?イツキさんは休憩を採っているはずです。」

そういうルリのきつい視線にうっとなるイツキ。
「良いじゃないですか。テンカワさんも行った様に故郷を見る権利は誰にだってある。そうですよね?」
イツキの確認に気づかずに居るアキトは前を見ている。
「ねえ、そうですよね。」
イツキは甘い声でアキトの頭を胸に招き、抱きしめた。そのことにアキトは紅くならずに言う。
「まあ、そうかもしれませんね。」
ふにふにというやわらかい感触が頭の上に感じられたがアキトは紅くなることも、
欲情を行動にすることも無かった。そう、彼は知っていた。この様子を見ている自分の
パートナーの視線があることを。そしてその光景にルリはつぶやいた。

「ばか。」
しかし、彼女の頬は赤くなっている。

ユートピアコロニーに着き、エステバリスから降り立つ3人。
周りにあるのは砂塵のような土と置かれたままとなり、放置されたショベルカーのような建設機械に、
その後でその強大な力を見せ付けるように刺さっているチューリップの姿であった。
「何にも、ありませんね。」
イツキは改めて回りの様子を見た。
「火星対戦当時、火星に向かってくるチューリップと艦隊をリアトス級の艦隊が迎え撃ちました。
ビーム攻撃をディストーションフィールドでふさがれた後連合宇宙軍は戦艦をぶつけることだけだったそうです。
しかしそれは一発のグラビティーブラストに封じられ、避難民の当初逃げ遅れるであろう人数を助け出す時間を与え、
その1日後に襲来したチューリップが打ち込まれました。それがこのチューリップです。」

そういわれて改めてイツキはチューリップを見上げた。
「で、その一個目のチューリップを倒した戦艦は?」
「已然発見できず、だってさ。」
アキトはそう言って手をショベルカーにおいた。
「まあ、それでも逃げ送れた人数はかなりの数に行く。その中には頭の切れる人がいるだろう。
そう言う人はこういうところに隠れるんじゃないかってシュミレーションで、ここが出た。みんな気をつけて。」
何を言ってるんだろうと首をかしげたイツキとルリを無視してアキトはその場を足をで力強くけった。
崩れ落ちる地面。その下に向かって彼らは落っこちていった。


艦長たる者艦を守るものとしてその艦に戦闘中は居なくてはならない。
それは民間の戦艦というあまい状況にあるナデシコも同じであった。

敵が居ないからといって火星は木星トカゲの本拠地である。
そのことも踏まえて、ミナトは雑誌を見たり、ラピスも一緒に雑誌を見たりアキトの監視をしていた。

そんな中一人だけ膨れっ面の女性が居た。
ナデシコ艦長であるミスマルユリカ、その人であった。

彼女は最近やっと会うことが増え始めたアキトの今回のユートピアコロニー行きに
強く反応していた。だがそれはジュンの止めによって止められていた。

「アキト、アキト、今どうしているの?」

そう言って彼女は自らの想い人の今を思い浮かべる。彼女の前で笑うアキト。
その妄想の中で彼のそばにはいつも朝食をとっているというラピスとルリに
ミナトとイツキが彼を囲んで微笑みかける。そして彼らはユリカを残して遥か彼方へと行ってしまうのだ。

そう考えると彼女はぞっとして自分の席を立った。だが、その様子を見ているものも居る。
「艦長、どちらへ?」
彼女の尊敬できる人物であるフクベの対応にユリカは多少緊張してしまう。
「ちょっと出かけに。」
そんな彼女の後ろにはぴったりとジュンが立つ。
「ユリカ、逃げちゃダメだよ。仕事からも、人の死からも、そして、現実からも。」
「うっ。」

ユリカは痛いところを疲れ、思わず唸る。彼女は作戦に関しては一流ではあった。
だが、そのメンタル面では弱いところがあった。そう言ったときはジュンをクッション材に
したりしたこともあったし、変わりに対応してもらったこともあった。

だが、ジュンはそんなことを許すミスマルコウイチロウてゃ違った。
ジュンは彼女のそう言ったところを改善するために付き合っている
そう言ったことも有ってジュンはユリカにとって一番の友達でありながら厳しい友達であった。
「でも、この子が艦長をやってくれるから。じゃあ、」
「じゃあじゃ無い!!」
ジュンは彼女が代わりと呼ぶソレ、ゲキガンガー人形を投げた。
「あなたの方がマシかも?」
「らぴらぴ意地悪〜♪」
茶化したミナトはゲキガンガー人形をコンソールの端に置くラピスを見ながら前方を見た。
前方には米粒のように小さい雛菊の姿があった。

◆▽◆

「ここは?」
イツキは改めて自分の居る場所を見渡した。
真っ暗な空間に何故あるのかは不明だが入り口のような隔壁がちょこんとある。
それは明らかに穴であり、シェルターであろうこの場所に違和感を与えていた。

「地面にあるシェルターの住民はほとんどが脱出しました。
でも残されたデータによるとこ区間だけが個人所有になっています。」

そう言ってルリはコミュニケーのデータをイツキの前に出した。

「本当ですね。おまけに回りは全部ネルガルのシェルターばっかりなのにここだけ個人のものだ。おまけに結構広い。」
そう言ってイツキはウインドウが霧散した区間に展開させた光を頼りに下にある障害物を
避けながら隔壁までにたどり着いた。そうして隔壁の前に立ったと同時にその隔壁が開く。
中から出てきたのは三つ網にしている金髪を揺らし、茶色の外套を着た妙齢の女性であった。

「招かれざるお客さん、ようこそ。せめてコーヒーでも出しますから、話が終わったら出て行ってくださいね。」

そう言って彼女はにっこりと笑い、その中に3人を導いた。中につながっているのは綺麗な通路であった。
そこに在るのはへや、へや、へや。その中をきょろきょろと見ながら進むイツキとルリ。
アキトは案内にきた女性の後ろに付いて行く。やがてたどり着いたのは食堂であった。観葉植物があり、
談笑しながら食事をとる人がいる。しかし彼らは食事を続けながらも見慣れぬ3人に視線を向けていた。

「説明しなくてはならないわね。ここにはあらゆるコロニーの生き残りに人たちが住んでいる場所なの。
私はネルガルの研究員のイネス・フレサンジュ。私のほかにも研究員やら生き残り、
または残され人たちがここに住んでいの。で、あなた達は?」

「俺はノウンの社員のテンカワアキト。今回はネルガルのスキャパレリプロジェクトに
付いての社を上げてのネルガルとの協力の元相転移エンジン搭載の戦艦ナデシコに難民の
救出を目的にしてきた。それと長い髪の女性がイツキカザマ。ツインテールの子がホシノルリだ。
あなたも聴いたことがあるでしょう。ヒューマン・インターフェイスプロジェクトの被験者です。」

「なるほど、ナデシコは完成してここまできたんですか。まったく無駄なことを。」
「なにが無駄なんです!」
イツキはイネスの言動に僅かな驚きを含ませて言った。彼女は命を張ってきたことを無駄といわれ、
怒っていたのだ。だが彼女が相手にしている人物も一癖あったのだ。

「説明するわ。ナデシコでは正直木星トカゲには勝てないし、勝つには敵のデータを採取
してナデシコの強化、相転移エンジンの能力アップが必要なの。」

「じゃあ、あなた達はこの艦に居るんですか?この艦の全貌は見えませんでしたが、
相転移エンジンを搭載している戦艦はナデシコだけなんですよ。」

イツキの言葉に反応してしばし呆然となったイネスは再び優しい笑いを漏らした。
「そう、相転移エンジンを搭載している戦艦はナデシコだけ、か。でも、それは違っていたの。今から見せてあげるわ。」

イネスは立ち上がって再び移動を開始した。3人もそれに習ってついてゆき、そのあとにも一人の小さな影が付いて行った。
隔壁をいくつも通り、エレベーターに入る。そのときにイネスは今まで付いて来ていた小さな人影に話す。
「ユキトくん、なんでついてきているのかしら?」
「別に、いいだろう。」
「見かけないと思ったらここにきていたか。ユキト。」
「うん、久しぶり、父さん。」
「えーーーー!?」

3人の声と同時に再びエレベーターが開くとそこにはエンジンルームが広がっていた。
「まあ、ユキトくんとアキト君に付いては後で聞かせてもらうわ。それでここはエンジンルーム。あれを見てください。」
そう言ったイネスの指差した方向を見る4人。それは壁に斜めにあるよう接合された円柱状のもの。
「あれは?」
「相転移エンジンです。ナデシコ物と多少の違いは有りますが間違い有りません。
そう、ナデシコが完成する以前からあるこの戦艦には相転移エンジンが搭載されていたの。
しかもここにある4機と反対側にある4機がね。でも稼動しているのは2つづつなの。」

「一機でも強い力を持っているエンジンが二機づつ稼動している。」
「簡単に考えればナデシコより高性能というわけ。それに稼動させることは出来なかったけど
オモイカネのオリジナルのものと同じ物があるとサブコンピューターに入っていたの。」
「しかし、これは個人所有区間にあったもの。個人の財産なのであなた方の行動は法に触れるのでは?」
「それは仕方が無いわ。生き残るためにだったら人は他人を蹴落としたり、使えるものはとことん使うはずよ。
ちょっとここのブリッジに入れなかったりバッタが整備用に格納されているのには少々嫌なところがありますけど。」

「そうですね。バッタが格納されていたのは驚きだが、あなたは自分達の行動をを判っていてここを
使っているのですが、法を破っている。しか人は簡単には死にたくないからな。」

「そう。で、ここに居る人たちはナデシコには行かないと思うんだけどどうするのかしら?」
イネスはアキトを僅かに見上げて言う。隣にいるイツキは怒ったような、戸惑っているような仕草を見せて、
ルリは傍観していた。その中でアキトは口を開く。

「あなたはネルガルの研究員の一人だ。一旦ナデシコに来てもらおう。
プロスペクターさんに事情を説明して残るか一緒に来るか決めるといい。」

「そうね。それと、一応のために私はこの子を連れて行くわよ。」
「ユキトだったらかまいません。俺も探していましたから。」
アキトがそう言ったときに警報が戦艦内に警報が響いた。
「これは?」イツキは呆けているのをやめてイネスに振り返った。
「ディストーションフィールドを持った戦艦がきたときになる警報なの。」

そう言って戦艦外の様子がわかる食堂に行こうかと逡巡するイネスの考えを止まらせるかのごとく
コミュニケからのウインドウが空中に表示される。

「アキト。来ちゃった。」
いきなり開いたコミュニケのウインドウに映ったユリカが笑う。
そのユリカを見て状況に付いて判っていないユリカにうんざりする4人であった。



まず最初、お葬式は限られた食料で行うのでやらないほうがいいのでは?
相転位エンジンが数基あっても、どうなのか?
過去の自分が突っ走っていたことを物語っている。
一覧へ