序章  始まりの時

シャトルの窓からナデシコのみんなが小さく見える。
今、俺とユリカは火星行きのシャトルに乗っている。

結婚式をあげて、まだ入籍はしていないものの俺とユリカは夫婦だ。これからのことを考えると、明るいことがあるようにと考えてしまう。
隣ではユリカがカメラと格闘している。カメラとはユリカが自分の給料で買ったものだ。
火星での思い出をたくさん撮るんだといって笑いながら買って帰って来たときのことをよく覚えている。

機内でアナウンスが流れる中で俺は考えてしまう。今までのこと・・・・・・

火星から地球へと人類初のボソンジャンプ、ガイ、イツキさん、白鳥さんの死、憎むべき草壁の顔、俺たちが飛ばした遺跡、
俺のボゾンジャンプで20年前へと逆行してしまい、イネスへと名前を変えたアイちゃん。俺はいろいろな罪を犯してきたのかもしれない。
これからどのように暮らしていくのかは分からない。けれども、自分がいいと思ったことを実践しようと思う。

しかし、考えてしまうことの中で一番難しいのは本当に俺はユリカを愛しているのかということ。
確かに愛していると誓ったのだが本当に俺はユリカを愛しているのだろうか。
それはこれからも考えて行くべき問題だと思う。

【当機はこれより、月に向かい離陸します。離陸時のショックにそなえ、シートベルトをお締めください。】

そのアナウンスが流れた次の瞬間、乗客の中で一人の男が立ち上がった。
その男はすぐさま、脇に携えていた編み笠をかぶり、緒を締める。そして開口に一言。
「テンカワアキト、ミスマルユリカ、我と共に来てもらおう」

「おい、なんだ?」「なんか立ち上がっていってるぞ。」周りの人が騒ぎはじめる。
「なんかのアトラクションか〜?」おちゃらけで男を怪しむ人も居る。

「ボソンジャンプ、その技術、これからの新たなる秩序のために汝らには礎となってもらおう。」
「ボソンジャンプ?何じゃそりゃ?」一人の乗客が首をかしげる。
「汝らには関係ない。」

そう、彼らは無知だったのだ。ボソンジャンプ、つい最近の木星トカゲ戦争での発端となった技術であり、
その原理は今だに不明。世間にはまだ公開されていない技術なのである。

アキトは男の言葉に驚いた。

ボソンジャンプを知っている。俺とユリカの身柄を欲している?あいつは何者だ?

アキトの頭の中で疑問が広がる。そう、男の姿ははっきり言って怪しいのだ。
編み笠にマントのようなものを羽織っている。
口調もまるで時代劇のような口調。アキトは『時代劇』というところで気がついた。
時代劇のような口調、それは木連の人にしばしば見られるものである。

今現在で地球に来ている木連の人はかなり限られている。
和平がなされたからといって未だに木連人との交流は限られているのである。
しかし、この男には和平をして対談しにきた人物とは考えられない。『新たなる秩序』これはいかにも怪しいのである。

アキトは男に話し掛けてみようとした。けれども相手との話はなされなかった。
そう、編み笠の男の目の前に屈強そうな2人のスーツを着た男がアキトとユリカの座っているシートから
編み笠の男が近づけないようにさえぎったからだ。
「その要求にはこたえられないな。」
1人の男が言う。
「ボソンジャンプ、それは禁断の技術だ。それをお前のような輩に渡すわけに行かないのでな。」
その男たちを目の前にして編み笠の男は口をゆがめて笑う。
「笑止。」
それが戦闘の合図だった。

スーツの男が編み笠の男にこぶしを連打する。しかし、編み笠の男はそれを難なくかわしている。
ローキック、ハイキックを放つが、ハイキックで足をつかまれ、逆にスーツの男は倒れてしまう。
編み笠の男はそのチャンスを見逃すはずも無く、懐から取り出した短刀を
スーツの男ののど下に当て、掻き切る。そして、鮮血があふれ出た。

「きゃああああああああああ」

乗客たちはそのありさまをましかに見ていたために驚き、パニック状態となる。
「さあ、テンカワアキト、ミスマルユリカの身柄を渡してもらおう。」
相方が倒されたことに少々驚いたものの、もう一人のスーツの男がアキトとユリカに近づき、相手を牽引しながら話し始める。
「我々はあなたたちの護衛としてネルガルの会長からの命を受けてこのシャトルに乗りました。
しかし、この状況ではあなた方を護衛できるか分かりません。ですから、これで逃げてください。」
そう言って男がアキトに差し出したのはCC(チューリップクリスタル)であった。
いざとなったらジャンプをして逃げろということなのだろう。男はそう言ったあと、編み笠の男に飛び掛った。

しかし、編み笠の男は不敵な笑みを残したまま、軽くあしらう。
「その程度で我を他を倒そうとしていたなどとは笑止。」
編み笠の男はスーツの男の心臓部に短刀を刺した。短刀を抜いたあとに胸から大量の血が出てくる。

最後に「お逃げ・・・くだ・・・さい。」男は息絶えた。
「さあ、テンカワアキト、ミスマルユリカ、来てもらおう。」

俺の目の前では信じられないようなことが起こった。
編み笠の男による殺人、しかも、殺された人たちは俺とユリカを守るために乗っていた人。
ネルガルシークレットサービスだったのだ。
間違いなく、俺とユリカが目的だ。もう1人の人も殺されて、編み笠の男が近づいてくる。
このままではまずい。ユリカを逃がさなければ。俺はそう考え、編み笠の男に飛び掛った。

「うおおおおおおお」

拳をストレートに放つアキト。しかし、相手は戦闘のプロですら敵わなかったやつである、白兵戦闘ではあちらのほうが有利なのだ。
男はアキトの拳をかわし、すぐさま、みぞおちに一撃を与える。アキトは通路に横たわった。
「ミスマルユリカ、汝にも来て貰おう。」
ユリカは悠然と男の前に立ちはだかり男をにらんだ。
「そうか、残念だ。」
そういうと、男はユリカに一気に近づき、白い布をユリカの口にあてがった。
すると、ユリカは気を失った。布にクロロフォルムが染み込ませてあったからだ。男はアキトとユリカを担ぐ。

その男を見て乗客の1人が口を開いた。
「お前の目的の人は捕まえたんだ。我々は関係ないはずだ。」
しかし、男は未だに無表情のままだった。
「そういうわけにはいかない。汝らには新たなる秩序のため、死んでいただこう。」
「オイ!!なに言ってるんだ。」「止めて・・・・」
男や女の乗客の言うことを無視して男は続ける。

「冥土の土産に覚えておくがよい。我が名は北辰。では、跳躍。」
男の一言によってアキトの手に握られていたCC(チューリップクリスタル)が輝き始める。そして、次の瞬間、機体は爆発した。


私たちの目の前でアキトさんたちが乗ったシャトルが爆発しました。
ゆっくりと周りが騒ぎ始めます。不意に私は誰かに抱きしめられました。
後ろを振り返ってみるとそれはコウイチロウおじさんでした。 でも、そんなことはドウでもよかった。

私はもう二度とアキトさんの笑顔が見られない。
ユリカさんの底抜けの笑いが見られないそんなことを悲しんでいました。

けれども、私はその感情を表には出しませんでした。
そして、シャトルが爆発したということを冷静に見つめている私が居ることに気づき、よりいっそうに悲しくなりました。


「さあ、テンカワ君、はじめるよ。」開口一番のその男は言った。

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一章 苦しみ


俺は奴等につかまり、モルモットのようにたくさんの人が集まった監獄に入れられた。
1人1人に話を聞いてみるとすべてに人が火星にすんでいて、第一次火星会戦で逃げられていた人や、
運良く地球に旅行に来て助かった人ばかりだということが判明した。これで奴等の目的がしっかりとわかってきた。


ボソンジャンプ、謎の瞬間移動方法、イネスさんの話によると、ボソンジャンプは瞬間移動は単なる副産物のようなものであり、
本来の使用用途は時間移動だと言っていた。
そう、そのボソンジャンプについての研究のために俺や火星の人々はつかまったのだろう。

つかまってすぐにユリカとは離されてしまった。
いったいどうしてなのだろう。

アキトは知らないのだがユリカは地球連合の総司令なのであって、ユリカは最悪の場合の人質とするために個室に隔離さえていたのだ。
ユリカは火星の後継者にとって最後の命綱でもあったのだ。

そして、アキトは憎むべき2人の人物と出会うこととなる。

つかまって1週間後、監獄の中の人数は最初に居た人の数の2倍以上に増えていた。
そして、やつが姿をあらわす。その男は、白衣を身にまとい、にこやかな笑みを浮かべ、編み笠の男を従えて現れた。
「は〜い。私があなた達の研究主任となるヤマサキヨシオです。そして、わたしの後ろに居るのが拷問、
格闘訓練の主任となる北辰さんです。
私は結構温厚なのでうが北辰さんは怒らせるとすぐさま殺してしまうので皆さん気をつけてくださいね。」


笑いながらも恐ろしいことを言うこの男、本人の言う結構温厚はとてもではないが信じられなかった。
「ユリカはどうした!!!!」
アキトは檻に近寄ってヤマサキに問い詰める。
「おや?あなたはナデシコに乗っていた人類初のボソンジャンプの成功者の
テンカワアキトくんではありませんか?あなたのような人とあえて、光栄ですよ。
もちろん、研究者としてね。あなたの奥方でしたらさっきお会いしましたよ。
アキトはどこ?アキトはどこ?と何度も訪ねてくるのでうるさいので眠らせておきましたよ。安心してください。」

そういってヤマサキは監獄の中の人を見渡すと、言い始めた。
「皆さんには私たち、火星の後継者のボソンジャンプの研究モルモットとしてもらいます。」
「草壁閣下の新たなる秩序なため、汝らは跳躍研究の礎となってもらう。
これはこれからの世のためになることだ。その礎になることを感謝するがよい。」

北辰の言葉で監獄の中に居た人から不満の声があがる。
「何を言ってるんだ!!」「いやよ、そんなの・そんなのは・いや。」「おい、私を解放すれば金はたくさんやるぞ。」
いろいろな人が自分の言いたいことを口々に言うので監獄の中は騒ぎはじめた。
「まま、皆さん、これから研究のため、あなたたちにはモルモットとなっていただくといいましたが。
これから早速はじめますので、まずはテンカワ君、君が最初に来てもらいましょう。」

ヤマサキがそういうと北辰は牢のかぎを開けて、アキトを連れ出した。
「はい、それではいきましょう。」
そう言ってヤマサキはアキトと北辰をつれて監獄の中から出た。
アキトが連れて行かれたのは真っ白の研究室だった。
そこには白衣を身にまとった人がたくさん居て、アキトがいすに座らせると頭にヴァーチャルルームにあった
ヘッドセッドも様なものを被せられた。

「さあ、テンカワ君、イメージしてください。そう、監獄の中を!!」
ヤマサキの声を無視してアキトはルリの居る筈の長屋をイメージした。そう、脱出である。
しかし、相手もただではそんなことをさせるはずがなかった。

アキトのイメージしているときに北辰がアキトの腕を刺したのだ!
「うがあああ。」
絶叫が白の部屋に広がる。
「ヤマサキ博士、どうだ?脳波とやらは。」
「うーん、難しいところですね。イメージしているから脳波での変化が見られると思ったのですが普通のときと
あまり変わりませんね。ただイメージしているだけです。もちろん、彼の座っているいすにCCが内蔵
されているのですが北辰さんの攻撃でジャンプフィールドは途中で消えてしまいました。
やはり、イメージがジャンプでの一番重要になるところなのでしょう。」

そう言うとヤマサキはカルテのようなものに丁寧に書き込む。
おそらくそのカルテのようなものが実験のデータのファイルとなるのであろう。
「それではテンカワ君、これからは北辰さんの格闘教室でがんばってくださいね。」
ヤマサキはまた部屋から出て行くのであった。
その様子を見守った北辰はアキトの腕にアンプルをあてがい、注入した。

アキトの顔に苦痛の色が広がる。
「医療用にヤマサキ博士が開発したものだ。ではいくぞ、試験体。」
北辰はそう言うとアキトをひとつのホールへと連れ込んだ。そこには北辰に似た格好をした男たち6人が待ち受けていた。
「隊長、我々はどうすれば?」
その入りの男に北辰は歪めた笑いを浮かべ、
「この試験体を抑えろ。」
北辰がそういうかと思うと、6人衆はアキトの腕、足、を抑えていた。
「さあ、木連式抜刀術の真髄を見せてやろう。」

それは、拷問でもあり、屈辱でもあった。アキトは四肢を抑えられながら
北辰の攻撃を受ける。正直に言えばかなりの出血をしたのであろう。
そして、そのことはアキトへの「自分は無力」ということを知らしめるかのようだった。
アキトは結局5時間くらい痛めつけられてようやく開放されたのであった。
アキトは、開放されると、最初に連れてこられた監獄の中に放り込まれた。
そのときのアキトの状況はすさまじかった。かなりの量の出血、青あざなどは無数にできており、衰弱していた。
しかし、アキトには死という選択肢は選ばなかった。

死、それは今まで出会った人との永遠の別れ、それは新たに得た家族との別れ、
ユリカ、ルリ、この2人の存在がアキトを生えと導いていたのだ。
毎日行われる木連式抜刀術の攻撃、アキトは何度か放された状態で技を受けたこともあった。
避けようとしても相手の刀は追いかけてくる。何度か避けられたとしても次の瞬間には相手の人数が2人に代わっており、
又しても倒されてしまう。

悪夢のような実験、ヤマサキの薄気味悪い笑い、たとえ叫ぼうが、わめこうが、ヤマサキは顔色を変えない。
たとえ目の前で人が死んだとしても変わらない。
「ここまででしたか。次に参りましょう。」
やつにとってすべての人は実験のモルモットにしか過ぎなかった。

そんな悪夢のような日々が過ぎてゆくうちに気づけば最初に居た人数の過半数数しか残っていなかった。
けれどもその人は何も語らず、覇気も無く、ただ、監獄の中に在る。

廃人同然とまでなっていた。俺と最初は話していた人も、話をしなくなりいつのまにか姿が消えていた。
考えられることは死んだのだろう。俺は何度もここで人の死というものを体験した。
刀傷がたくさんできていて、出血多量で死んでいった人、イメージングの最中で極限状態になり「もういやだーーーー!!!」
そう言って事切れた人。大勢の人が死んだのだろう。

そしてアキトにも実験が行われる。周に2回ほど行われるナノマシンの投与、
それによってアキトの感覚はいつしかなくなっていた。物を触っていても
どんな形なのか大まかな形はわかるのだが細かい形はわからない。

感情が高まれば体が発光するナノマシンもい投与された。アキトはこの発光するナノマシンが一番嫌いだった。
まるで、自分がイルミネーションになったように感じたから。視界はぼやけ、いつもまずいと思っていた。
支給食料はまずいということさえ感じられなくなっていた。物を触ってみても形が分かるだけ、手触りはわからない。

かろうじて耳は聞こえていた。しかし、その耳が聞こえるということはさらにアキトを苦しめた。実験のときに人の叫び声が聞こえるからだ。

俺は一人のお爺さんに出会った。そのお爺さんも俺と同様に体中に青あざをたくさんつけられており。長く、白いあごひげが伸びている。

しかし、ひげは白い色一色ではなく、赤、紅の色もついていた。目が細い狐目で顔にはしわが畳まれている。
「若いの、わしはもうだめだ。そこで若いのに言っておきたかった。
あきらめるな。希望を捨ててはいかん。そして、他人ではなく、自分を信じるんだ。
わしはもう疲れてしまった。若いの、最後にあんたにこのことが言えてよかった。」

そう言っておじいさんは事切れた。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
牢屋の中で俺は叫んだ、悲しんだ。目の前で生きていた人が目の前で死ぬ。

これほどつらいものは無かった。他にも、いろいろな人の最後の言葉を聞いた。
奥さんに合いたいといっていたおじさん、ママに会いたいと言って俺にすがってきた女の子、俺の心はもう限界だった。

焦点の合わない瞳でアキトは虚空を見つめる。俺は何を信じればいいんだ?たくさんの火星の人の死を見てきた。

ユリカのことを信じていたけれども、たとえ信じていても助けはこないし、
痛みがなくなるはずも無い。残るのは現実の厳しさ。もう、信じない。信じるのは自分だ。

お爺さんの言葉が頭の中で響く。
「自分を信じるんだ。」
アキトは自分を信じて、助けがくることを待った。
目の前で人が死のうとすればアキトは必ずその人の最後の言葉を聞いた。
そうすることによってアキトは彼らのことを心の中に刻んでいった。そのたびにアキトは変わってゆく。

その間にもアキトには数多くのナノマシンが投与された。医療用のものもあれば、
毒作用があるもの、しかし、たとえ毒のナノマシンが投与されても1日我慢すると解毒用のナノマシンが投与される。
はっきり言えば堂々めぐりなのだ。
そして、今日もアキトの元にヤマサキと北辰の部下の一人がやってきた。
「テンカワ君、君はすごい事に選ばれたよ。」

明るく言うヤマサキをアキトは蔑んだ瞳で見上げる。
「お前の言うことは安全性なんてこれぽっちも無いからな。信じられん。」

アキトの性格は確実に変わっていった。死ぬ人の目の前では彼らの最後の言葉を聞くときは優しく振る舞い、
科学者の前では冷たく、軽蔑するかのような態度を取る。そしてすこし声のトーンも変わっている。

「はははまったくそのとうりなんですよ。実はですね、今回君に投与す
るのは君たち、ナデシコが飛ばした遺跡の演算装置についていたナノマシンなんですよ。」

アキトは動揺した。遺跡・演算ユニット、それは宇宙のかなたへと飛ばしたは
ずの物であり、あらゆる意味での厄を招くもの。
「遺跡!?それは確かに宇宙に飛ばしたはずだ。」
それにヤマサキは答える。
「そうですよ。確かに遺跡は宇宙を飛んでいました。けれども、飛んでいた先に何かがあったとしたら?」
「当然その何かにぶつかる??」
「その通り!!」
アキトは怒るを通り越してもうあきれてしまった。このヤマサキという男は憎くて最も分からない男なのだ。

「回収した我々はその遺跡によって新たなる秩序を作ろうとしたのです。しかし、それには遺跡の演算ユニットをコントロール
しなくてはならない。そこで私がいくつかの案を考えたのです。
1・マシンチャイルドに遺跡に付着していたナノマシンを投与して遺跡をコントロールする。
2・ジャンパーに遺跡に付着していたナノマシンを投与して翻訳機になっていただく。
3・ジャンパー自体を遺跡へと融合させてイメージ翻訳機になっていただく。君はこの中で2番目の案の被験者に抜擢されたんだよ。」

はっきり言ってちっともうれしくないことに抜擢された。
まったく俺の悪運もここまでくるとはな。アキトは自嘲するのであった。

「はい、それでは参りましょうか。」
「ここでやるんじゃないのか?」
アキトは驚いた。今まではこの研究施設でしか実験はされず外には一歩も出られなかったからだ。
「いいえ、ここでやりますよ。でも、今までのところとは違いますよ。」
そう言ってヤマサキは歩き始めた。アキトはずっと様子をうかがっていたが結局は外には出なかった。
そして、アキトはひとつのドアの前へと立たされた。そして、中へと入る。
そうすると中は真っ黒であり、中央にスポットライトのついた診察台があった。

「さあ、そこに寝てください。」
アキトはおとなしく寝る、今まで抵抗したことがあったのだがすぐさま北辰か北辰の部下に痛めつけられるからだ。
アキトはおとなしく診察台に寝た。拘束されたアキトの視界から見えるのはぼや
けているけれどもヤマサキ、彼の手にはアンプルが握られていた。そしてアキトの腕にそのアンプルを近づける。

プシュッ という音と共にナノマシンが注入された。注入されたな。そう思うと次の瞬間驚くべきことが起こった。
アキトの目の前にはたくさんの人の幻影、その人は前に居た監獄の中で1度は見たことのある人物であった。

驚愕するアキトに更なる驚愕が!!??
その人々のいろいろな感情が頭の中に割り込んできたのだ。
その感情は「痛み」「苦しみ」「望み」「希望」

部屋の中にアキトの叫びが広がる。拘束された腕をまるで、
そう、何かから逃げようとするかのようにジタバタと動かす。
「おやおや、こういうことになるんですか。」
ヤマサキは変わらずにその様子を観察する。
「ヤマサキ博士。」
山崎の後ろに佇んでいた北辰の部下が声をあげる。
「ああ、そうですね。このままここに居てください。テンカワ君、私はこれから出張しますので元気で居てください。」
そうってヤマサキは北辰の部下を連れて出て行った。

俺の中にたくさんの人の感情がはいてくる。
「いたいよう。」そういう女の子のような声が頭の中に広がると思うと、「何故こんなことになったんだ?」俺に問い掛けるような声も、
次から次からと色々な人の言葉、意思というものを感じる。膨大な量の意思を感じて俺はたくさんの思いを知る。
人の思い、そして、最後に俺の元にやってきたのはおじいさんの意思だった。

「自分を信じるんだ。」

その言葉を聞いて俺は安心できたようなきがした。

暗転・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・暗闇、そこにアキトは存在していた。漆黒の空間の中にアキトはいた。
そして、空間の中で頭へと何かが入ってくる。
守護せよ   我等の守護をせよ   犠牲となりし者たちの幸せを
守護せよ   最後に問う      汝にできるか?

俺はその言葉が何なのかが分からなかった。
ただ、その頭の中に入ってくるその言葉を聞いているだけしかできなかった。

そなたの答えを求む


目の前が明るくなるような感覚を俺は覚えた。
研究所内に警報音が広がる。それと共にレッドランプが灯り、危険だということを物語っている。
俺はそのことに驚いた。何かの事故?敵襲?それとも、この研究施設の自爆?

いや、そうではないようだ。部屋のドアが開く、そこにいたのは白くて金の縁取りをされた制服を着た男。
軍服を着て、マシンガンを構えて警戒する男、その他にも黒いスーツを着ている男たち、その全員がガスマスクをかぶって
部屋の中へ入ってきたのだ。

そして、男たちがガスマスクをはずす。
ガスマスクの中から現れた顔をかすんで見える瞳で拘束されたアキトは見上げた。
その顔はアキトの知っている人だったのだ。
「ゴートさん!?」
ゴートはアキトの拘束された診察台に近づく。
「テンカワ、大丈夫か?」
そう言いながらゴートはアキトを拘束していたベルトをコンバットナイフで切り裂き、アキトを開放した。
「ゴーとさん、これは一体?」
すると月臣が口を開く。

「今回の目的がA級ジャンパーの救出なのだ。テンカワ、お前もその中に含まれている。」
「月臣、なんであんたがここに居るんだ?」
アキトが尋ねた瞬間部屋のドアが開いた。そこに現れたのは編み笠にマントの様なものを身にまとった男、
間違いなくこの男は北辰の部下であろう。その男に向かって月臣が肉薄し、男の両足を払い、落下の勢いで頭を捕らえ、つぶす。
ぐちゃっ  なまめかしい音が静かに聞こえる。
「ゴート、このままでは新たな刺客が現れるかもしれん、退却しよう。」
「ああ。A班、B班は無線ではお姫様の確保はできなかったようだ。
ともかく、テンカワを確保できただけでもよかった。これより、撤収する。」

そう言うと黒いスーツの男たちが撤収し始める。
「ゴートさん、俺はどうすれば?」
ゴートはアキトに振り向くと、
「すまない。」
アキトが倒れる。
「月臣、撤収。」「わかっている」
アキトは救出された。


NEXT


俺は助けられた。しかしこれからどうする。
思い浮かぶのは苦しむ人たち、思い浮かぶのはユリカの笑顔、そして「自分を信じろ」といったおじいさんの顔。

俺は一体どうすればいい?彼らに俺は何ができるのか?

これこそが俺のこれから考えることなのかもしれない。

2章 弔い人

気がつくと俺はベッドのある部屋に居た。部屋、普通に、ベッドがありテーブル、イス2組、テーブルの上には一輪の花ナデシコ。

監獄でないことが一番よかった。今までの警戒心がほぐれる。見回してみれば周りには人は誰もいない。
俺は少しばかりの孤独感を感じた。

じっとしていると部屋のドアが開いた。そこから現れたのは
「いや〜お久しぶりですね。」
クリーム色のYシャツ、赤いベスト、黒のネクタイ、金縁のメガネ、アキトはぼやけた視力でよくその人物を見る。
「プロスさん!?」

そう、現れた男は元ナデシコクルーの会計役についていたプロスペクターだったのだ。
「テンカワさん、我々のガードが甘かったせいで拉致されそんな風に変わってしまって、まことにすみませんでした。」
そう言って丁寧に謝るプロスぺクターにアキトはたじろいでしまった。
「そんなことは無いですよ、プロスさん。それに、最終的には助けってもらったし。」
「そうですか。会長がお呼びなのでテンカワさんは着替えてください。」

そう、アキトは救出されたが未だにつかまって着させられて囚人服のようなものを
着ていたのだ。髪もぼさぼさに拍車がかかり、背中まで伸びている。
「そうですね。」
アキトは頷くと、汚れを落とすためシャワールームへと向かった。
会長室そこはネルガルの一番の権力者が居る場所。
しかし、今そこにはそこにふさわしくない雰囲気・格好の長髪でいつも笑っている男アカツ
キとその部屋にあった格好、雰囲気をもった秘書であるエリナ・キンジョウ・ウォンがいた。

雰囲気に合っては居ないのだがアカツキの貫禄というものはしっかりとできていた。
彼も会長という職の板に乗ってきたのかもしれない。いま、アカツキはある人物の身体の
状態のデータの報告書ウインドウに移して読んでいた。その人物はテンカワアキト、彼の
友人であり、仲間であり、自分の未熟さゆえ、拉致されてしまった男である。

その会長室に2人の訪問客が現れる。アカツキはデータを読むのを終わりにしてウインドウを消した。
「会長、テンカワさんをお連れしましたよ。」

そう言って現れた男、プロスペクターが自分の後ろに居た男性を前に出す。
その男はぼさぼさの髪を無造作に後ろに伸ばし、白の、病院で患者が着ているような服を着ていた。
焦点があっていない瞳はゆっくりとアカツキの方へと向けられる。
(おいおい、これがあのテンカワくんかい?なんだこの変わりようは。)

そう、彼の、アカツキの前に居るテンカワアキトは彼の知っている
テンカワ・アキトとは違って居た。確かに身なりや格好は少しは変わった。

けれどもアカツキはアキトに対して外側だけではなく、その内側、精神的なものに違和感を感じた。
そう、根本的な。以前のアキトは大体は笑っていて、ゲキガンガー好き、熱血野郎で料
理人を目指している男であった。しかし、今の彼は違った。雰囲気は暗く、冷たくなり、
虚空を見つめた瞳けれどもその中の芯、心は以前の彼とは変わっていたのだ。

その彼の変化を確かめるためにアカツキはアキトに話し掛けた。

「テンカワ君、久しぶりだね。1年ぶりかな?」
そのアカツキの言葉にアキトは驚いた。
「1年!?俺はそんなに奴等につかまっていたのか。」

アカツキはひじを机に立てながら続ける。
「あれ?テンカワ君、知らなかったのかい?」
「ああ。日数なんて数えていられる状況じゃあなかったからな。」
そう言ってアキトはいままでのことを思い出したのか視線を床に向ける。

「おいおい、テンカワ君、そんな暗い顔をしないでくれよ。まあ、一応助かったんだし、どうする?テンカワ君。
普通社会に出たとしても又奴等につかまっちゃうよ。まあ、その前に君のナノマシンは安全の量を超えている
から身動きもまま成らないとは思うけれど。」
デスクから立ち上がってアカツキは腕を組みながらアキトにたずねる。
「復讐」
くらいトーンの声が帰ってくる。
(テンカワ君、君はこんなに変わってしまったのかい!?)驚きながらもアカツキは続ける。
「目的は?」
「弔いだ。そのためにアカツキ、お前に力を貸してもらいたい。」

その静かな会話にエリナがはいってくる。
「ちょっと、何言ってるのよ。あなた、艦長はどうするのよ。
 あなたの奥さんでしょ。それにあなただって結婚式の時喜んでたじゃないの。」
アキトは突き放すかのような口調で返す。

「それがどうした。ユリカは確かに俺の妻だ。確かに愛していたのかもしれない。
しかし、戸籍上で死んでしまっていると成ると、それも過去の話となり、俺自身も戸籍が無い。まさに亡霊って言ったところだ。
最後に俺はユリカなんてどうにも思っていない。」
その言葉は会長室に居た3人に衝撃を与えた。
「テンカワ君、今の言葉は聞き捨てなら無いね。そんなこといったらミスマル総司令に殺されちゃうよ。」
アカツキの頭の中で親ばか大爆発の起こったミスマル総司令の顔が浮かんでいた。

その顔はまさしく鬼の形相であったとか。しかしアキトの意見に賛成する者も居た。
「まあ、戸籍上では死んでいるのですから裁判での表ざたとは成らないと思いますが・・・」
静寂が広がる
「まあ、いいんじゃないの。テンカワ君がつかまっていた組織の研究所は表としてはクリムゾングループの研究施設と
なっていたんだし、奴等が火星の後継者とつながっていると分かったら、クリムゾングループとの競売争いでも楽になるしね。」
その言葉にプロスも宇宙そろばんをはじき、
「経済的にも支援できますし、いいんじゃないですか。私としても賛成できます。」

アカツキの発案に賛成する。
「ちょっとあなたたちまで何言ってるのよ。」
エリナは反対のようだ。彼女もまたアキトへの思いを持った女性であった。
しかし、アキトを諦めミスマルユリカにアキトを譲ったこともある女性なのだ。

その認めた相手をアキト自身が否定する。これは彼女の行為を無駄にすることでもあり、
そんなことを彼女は認めたくなかったのだ。でもアキトの心は変わらない。
「それが俺の決めたことだ。ユリカのことを俺は愛していたかも知れない。
しかし、何故ユリカを愛していたのかそれを考えると自分自身でも分からなくなる。

俺は「ユリカ」という名の偶像を崇拝していたのかもしれない。」

アキトはアカツキ、エリナ、プロスの知っているアキトとは変わっていった。「ユリカを愛している。」その言葉が厳しい
実験の中で彼を生かせたのだ。しかし、その言葉はたくさんの火星の人々の死と、その中の一人の老人の最後の言葉で変わってしまった。
「自分を信じる。」この言葉こそが今の彼の信念なのだ。

「では、会長いかがしましょうか?」
腕を組んだままアカツキは答える。
「そうだね。サレナ型を使おうか。あのサレナ型は誰にも使いこなせなかった。
使いこなせる人が現れなければただのでくの坊。ウリバタケ君にチューンを頼んでみるよ。テンカワ君、君に使いこなせるかな?」
その笑い顔はアキトへの挑戦状とも見て取れる笑いだった。

それから彼の特訓が始まった。最初は次世代オモイカネ『アーク』との補助脳でのリンク、
このことによって視覚補助バイザーは必要になったのだが普通の人と同じ行動はできるようになった。
ナノマシンの除去も実験として行われた。しかし除去するまではよかったのだが1つ忘れていたことがあったのだ。

それはアキトに投与されたナノマシンの中に毒性のナノマシンと解毒作用を持つナノマシンが含まれていたこと、
結果、解毒作用を持つナノマシンを毒性ナノマシンより多く摘出してしまい結局ナノマシンはアキトに再度投与することとなってしまった。

五感の復活も目指しイネス博士がナノマシン除去と同時並行に奮闘したのだが、神経自体が衰えている器官もあり、嗅覚と味覚の復活はなされなかった。

その他の器官も普通の人と同じことができるとはいえ、普通の人の五感より、アキトの五感は衰えていて
イネスは最終的にはアキトの寿命があと3年だということを宣告すろこととなった。
それでも体が動かせるようになるとアキトは腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワット、などの運動をしてなまっていた基礎の体力を
極限まで高め、自分の体を破壊するかのごとく厳しい特訓が行われた。

次に月臣との木連式柔、木連式抜刀術、銃の扱い方、最後にサレナ型での実験。
技術者であるウリバタケは1つの条件をアキトに要求した。
それは「ブラックサレナ」という機体ではなく、「追加装甲ブラックサレナ」を作るということ。

最終的にはアキトはそのことを承諾した。
最初はエステバリスカスタムの脚部に飛行ブースターがついていて、
チューリップクリスタルが胸部についているという非常にお粗末なものだった。

けれども、サレナは変わっていった。木連の技術を採用することによってジャンプにも
適した機体が作られ、実践によって分かった汚点を改良、フレームの強化、アキトの五感サポートオモイカネ『アーク』の搭載。
ウリバタケ、イネスの技術者やアキトの意見を取り入れられ日一日とサレナは強くなっていく。

そしてそのサレナの主であるアキトも変わった。

最終的な実践、それはアキトの変化を一番にあらわしていた。
月臣、ゴートにも及ぶ隠密行動、残忍的な敵への攻撃、それで居て、救出した人への優しい対応、偽りの笑いの仮面、彼は変わった。
黒いバイザー、黒いマント、銃、漆黒の世界で生きる存在、復讐者へとそんな彼のもとに今日も新たなる敵の所在地がネルガルシーク
レットサービスの通信を通じて届いた。

その敵はある物、いや、ある者を所持していた。

マシンチャイルド、ネルガルによって造り出された存在。
オモイカネという名の遺跡よりサルベージされた技術を操る妖精とも呼ばれる存在。
そのマシンチャイルドプロジェクトはアカツキによって事実上は凍結されていた。

そしてそのような命令を研究者たちは承諾した。結果、生まれたのがマキビハリである。
彼は生まれてから研究者の養子となり、かなりの感情を有している。
しかし、表があるということは裏もある。研究に執着しすぎて命令を聞かなかった者もいたのだ。

その研究者たちによって起こされたプロジェクト、それこそがプロジェクト『ラピスラズリ』である。
プロジェクト『ラピスラズリ』、それはマシンチャイルド、ホシノルリの成功をもっとよりよいものし
しようとした研究者によって秘密裏によって行われたプロジェクトである。

祖体としてホシノルリの遺伝子を操作して作り出した子供を使用し、ナノマシンの演算能力を極限まで高めた。
そのせいでルリが瞳にナノマシンパターンが現れるのに対してラピスは全身にまでナノマシンパターンが現れてしまう。
なおかつオモイカネとのリンクに特化し、ホシノルリ以上の演算能力を有することとなった。研究者たちはこの成功に喜んだ。

しかし、彼らは浅はかだったのだ。敵が居るということを知っていなかったから。
その研究所は火星の後継者・北辰によって強襲され、ラピスラズリは拉致されてしまった。
その後、ラピスラズリはネルガルシークレットサービスの捜索によって探されていた。

結果、ラピスラズリは発見され、アキトへと救出の命令が下ったのだ。
「ラピスラズリ、この子が俺の助ける子か・・・・・・・・」

アキトはラピスのデータの資料をあてがわれた自室で読んでいた。
資料の中でラピスの写真も掲載されていた。笑いもせず、怒りもせず、唯の無表情、アキト中で昔の、ナデシコ出航時の
ときのルリとそのラピスの表情が重なった。そして思い出の中のルリはアキトに微笑む。
「ふっ、ルリちゃんを思い出すとはね。」
笑いの仮面をかぶりながらアキトはその場で寝ることにした。

そう、2人は出会うこととなる。この出会いの先に何があるのかはわからない。

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よんでて、下手な部分が明らかにわかります。言葉足らずですね。
それでも、今一から書くのは面倒なものを改訂したものであっても、よく書いてたもんだ。


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