ブラックサレナは現在位置に滞空したまま、現状を維持するアマテラスを見やった。
「計画は順調か。」


テンカワアキトは機内のアサルトピットの中でごちた。
今回の作戦はアマテラスへのハッキングによる電撃作戦だった。
内部はパワースーツによって制圧し、外部では虚偽情報を流している。


今回のブラックサレナはアマテラスの監視と偵察、そして情報虚偽を行うアンテナ役を担う。
「正面でやりあうには慰撫部隊には戦力は無い。」


人数が少ない慰撫部隊の兵力で、統合軍の二割にもなる後継者を討ち取るのは難しい。
士気と装備した兵器、そして錬度によってその兵力差は覆るものだが、
往々にしてうまくいくとは最初から考えてなど無い。


アキト・ヘミングとテンカワアキトが行う最終目的は遺跡の本拠地返還と、コードの打ち込みだ。
いつか古代火星人は自分たちのような、彼らが遭遇した真なるジャンパーを捕獲使用とするだろう。

原理を理解した、それでも不条理が付きまとう技術。

彼らはそれを捨て置いて、いつか網にかかることを待っていた。
いや、彼らに等しくなるものの存在が生まれるように仕向けることすらしていた。

火星のジャンパーは、古代火星人が求めるであろう献体なのだ。
ボソンジャンプという非効率な技術を体得した、自信とは異なる生命体。


「こっちが正面でやりあえる状況と戦力は一応に作った。」
アキト・ヘミングが行ったのは火星の独立状態と、居住を可能とする都市の形成だ。


本来ならば慰撫部隊を作るまでも無く、調査のために火星は捨て置き、統合軍と連合宇宙軍のみが
駐留する星となっていただろう。
そこを人が住める状態に持ち込んだ。火星の民が帰る。実験体としての調査を許可した人材が、火星にいる。

このことによって統合軍の、火星の後継者の持ちえた実験の進歩は落ちたといって良いだろう。


彼らの調査によって、現在の火星で子供が生まれたとしても、ジャンパーになることは無いということがわかった。
だからこそ現住する人間の有用性と、ジャンパーの居住によって成る実験が必要となってきたのだ。

「内部はどうなっているか、こちらからは干渉できない。さて、どうなる。」
アキトは体を機体に拘束したままで、もしものときに備える。

火星の後継者の指針表明、内部分裂、統合軍の反旗。
ありえることは、サイバースペースでの戦闘だけということではない。
実地の戦場でユーチャリスとナデシコBは戦うことになる。

もしものときの伏兵である彼は、深い沈黙に身をゆだねた。


攻防


「調査内容を解析します。ユーチャリスメインAIインの調査を開始します。」
時間は戻って査察部隊がアマテラス着艦時に戻る。
ナデシコB艦内は警戒態勢を維持したままで、ルリは先ほどの解析を行うことを表明していた。

「そんなに急ぐことですかねぇ。」

サブロウタはルリのしたいことを了解しているが、クルーの心配を代弁して言った。
「艦の制御はハーリー君に任せられると思います。大丈夫ですね。」
「はい、大丈夫です・・・とも。」
少々尻すぼみになるのは、彼自身が心配を抱いているのを如実にあらわしている。
最も、クルー全員が彼の実力を承知しているのだから、ルリのお墨つきが出たといえた。


懸念となるのは、ルリのコンディションが大きくかかわってくるのだ。
IFSオペレーティングにおいては多分に精神力が大きく必要になってくる。

彼女の状況が艦の性能を左右する。ワンマンオペレーションシステムが採用されるのに、
拒否感を表した軍関係者の意見が思い起こさせるエピソードがあるくらいだ。
「確かに無茶を言っているのは承知しています。」

大きな声でいえないからこそ、ルリはしっかりと理解していた。

既にクルーは了解しているからこそ、行動を起こしている。
ユーチャリスメインAIインはオモイカネの方向性を模索するというコンセプトから、
複数の多重思考を可能としている。

「それのモデルを実在の人間から取っているなんて、何を考えているんでしょうかね。」
解析を行う際に、ネットワークから遮断を行っている。
ジャンプナビゲート実行時のシステム稼動率はオモイカネよりも少なく、位置データは
ヒサゴプランの標準を踏んでいる。思考パターンは百で、参考になっている人物は・・・

「思ったとおりになるのはいいのですが、複雑な心境です。」

予測はしていた。でも、事実として発覚した現実の重さは想像をはるかに超えていた。
人間にある恣意部分を現存する固体に委託させて行う、オペレーション演算。
「ラピスラズリですか。」
その存在は連合宇宙軍にあって秘密。決して知られることの無いように。火星慰撫部隊に
所属をおくマシンチャイルド。

ユーチャリスをモニタリングしているディスプレイには、
アマテラスに対して行われているハッキングの顛末を理解するには、十分なデータが流されている。

ユーチャリスがおこなっているハッキングの内容は、
アマテラスを含むこの宙域に存在する機動兵器と艦船にたいする無差別ハッキングだ。


本来ならば行えるはずの無いこの行為はアマテラス主要意ステムをハッキングされた事態で、
アマテラス自身のアンテナから電波もしくは通信によって、全域伝染を行っている。

この行為をユーチャリスは単艦で行っている。ナデシコBの姉妹艦と言う触れ込みだが、
その実情はワンマンオペレーティングシステムより以前に考えられていた、マシンチャイルド主導の運用プランといえよう。


それ専用に特化している相手に向かって戦うほどにナデシコは建造されていない。
「事件の主要は私たちに握られていない。
火星慰撫部隊、彼らの中の中枢こそが、事件を終わらせられることを関係者が理解している。」

モニタリングしているこちらにハッキングとは異なる通信コネクトを確認する。
それは、こちらにコネクトしていることを知らせることなく、監視するような行動をとっていた。

元はイン、ラピスラズリの意思を持つオモイカネ級だった。
だからこそ、ルリは余計にわかるのだ。

「此度の戦いは、既に道をこちらが作っているのですね。」

連合宇宙軍、連合政府も関与している。火星慰撫部隊の中枢たるアフメットとアキト・ヘミング。
二人の存在がキーパーソンと成っている。既に、戦いの道程は見えていたのだろう。

ハッキング内容を観測してわかることは、アマテラスが動揺しながらも応戦している機動兵器は、
存在しないものではないことだ。火星慰撫部隊は実働兵器として既に完成したものを待機させている。

可能性で考える必要はない。
「艦長、ユーチャリスより通信です。」
「つなげてください。」

通信ウインドウが展開。ユーチャリスの艦長であるアキト・ヘミングの姿が映し出される。
「ホシノ少佐、ナデシコBの警戒態勢をAに上げて、アマテラスヘ入港してください。
ナビゲートはこちらで行います。」

「了解ですが、用件を伺っても良いでしょうか。

この宙域で行われているハッキングは、ユーチャリスよりのアマテラス完全掌握です。
ジャンプを随時行っている艦艇は、そちらで握っているシステムで正常運用され、意図はこちらに知らされていない。

その意図をお願いします。」


軍人としては言っては成らない言葉だ。
軍人として、命令にはすべから図肯定しなければいけないという大前提を崩す発言をルリは言った。
言ってしまったのではない、これは聞かなければ成らないナデシコ艦長としての責務だった。

「慰撫部隊の行動は、一貫して生存にあります。」
それは、理解不能の言葉を発した。
「生きるためには、敵が存在する。敵が存在するならば戦うしかない。戦うのならば・・・」
「滅ぼすしかない。」
ルリの続く言葉にアキト・ヘミングは肯定として首を縦に振る。

「ですが、そう言っていられないほどに、世界は拡大した。政府として統一して見せた連合政府と、
それに同意することなく独自路線と、他の反連合政府国との連携を行っていた者たち。

人道主義をうたった連合政府といえども、それは他者は他者であって、理解しなくても擦りあわすことなく、
存在しようという考えです。」


「それは、納得できます。理解できなくとも、存在はできる。
知らなければ、知ることもなかった。それが、人間としての認識でしょう。」
ルリは彼に肯定する。


連合政府とは、今主流になっている旧国連を中核として国家の連結を行っている機関のことなのだ。
中には合衆国同様に独自の自治を行っている区域もある。
人道的に、人権を尊重し、人間として平和に生きられる。この最低の条件が守られれば、
連合政府は介入をすることはない。

「だが、いつまでも理解しないままで存在してもいられない。
独自文化の混合した、決して一つになることのない坩堝が連合政府なのです。

でも、今回のボソンジャンプの登場でそれを壊そうという輩と、
相互理解をしようという輩が敵に現れました。さて、どうしましょう。」

「さあ、知りません。」
ルリは正直に答える。

敵の存在はハッキング任務を拝命した時点で理解した。存在を知ったからには、彼らのことを知らなくてはならない。

だが、敵として挙げられたのは統合軍。連合政府に所属する連合宇宙軍と双璧をなす軍組織である。

「簡単じゃありませんね。ともかく、ナデシコBには保護対象者を多数収容してもらいます。よろしいですね。」
否定はできない。ルリが擁するナデシコBは軍艦だ。

「了解しました。ナビゲートはそちらで、車庫いれはこちらで。」
「助かります。では。」
ウインドウの消失。シートに身を任せる。
半ば立ち上がる姿でウインドウに立ち会っていたせいか、緊張が全身に座ってから伝達した。


「ナデシコB警戒態勢パターンA、アマテラスへ入港接岸します。」
「了解、警戒態勢パターンA、入港シークエンスを開始します。」
復唱をハリが行い、各自オペレータが各部署に連絡する。

「不気味です。」
全てを理解しているという運びだった。

自分の警戒心も読まれている。ならば、相手はどこまで見据えているのか。



「アキト。」
「ああ、わかっているさ。」
共同する存在として、アキトはラピスの小さめいシートに腰を下ろし、
ラピスの小柄な体を股に乗せて答えた。

IFSコネクタに二つの手のひらが置かれ、
意識がテンカワアキトとアキトヘミングとしての重複から言語に表せないまどろみにある。

ブラックサレナの中で、状況を監視する自分と、ラピスの手に自分の手を重ねる自分。

オモイカネ・インに住む多重のラピスラズリの意識に、自分を観測しているものを知覚し。
ルリが気づいていないように監視しているのをわかっていて、ナデシコBの艦内を探索するお茶目な意思体を把握する。

全ての意識が空間として拡充し、拡散し、攪拌することなく均一に広がる感覚。
「アキト、」
「大丈夫だ。」
ラピスの心配そうな表情が見えた。
ユーチャリスにあるオペレータシートは3つ、二段フロートに分かれた小さめのブリッジに存在する。


艦長用のシートを中心として、三つのシートは放射状に配置されて上段にある。
アキトは中央のシートに座り、ラピスを抱きかかえる体制にあった。

左にはアイ、右にはサキが座ってハッキングと艦船の操縦を行っている。

知識としての操縦や、ハッキングをしている彼女らを補佐するために専門の操縦士と砲術士が在中して、
下段シートに通信と機動兵器オペレータとともにいる。

重複しているのは肉体のみ、意思はテンカワアキトとアキト・ヘミングとして乖離しているわけではない。
意識すれば同期し、それぞれの肉体を同時に動かすことができる。だが、それを切り離して行動をとることによって、
それぞれが違う行動を行っている。

オモイカネ・インがラピスラズリの群体とすれば、
アキト・ヘミングとテンカワアキトはその意識を一つとした群体だった。

「肉体の意味はやがてなくなる。それが、彼らの見解さ。
そして、消えるにはまだ俺は人間としてありすぎる。」

アキトは意識を集中して、ラピスの小さな手と自分の手を絡ませる。

「そして、キーと成ったお前も俺と共に逝くのだろうよ。」
ラピスが自分の背中を胸に押し付け、硬くなった体をほぐした。
「そう、なんだね。」
「ああ。」


しなくてはならないことがあった。人間から外れた存在であることを、アキトは自覚している。

それをしなくては、自分は満足に人として存在できず、
サクヤと生を謳歌できず、成長したラピスを抱きしめることができない。


「天秤をこちらに抱き込んだことは成功だ。火星はやがて、独立国家となる。
木連と、慰撫部隊と、天秤と。連合政府の管轄から外れた一つの国家として。」


アキトは初めて、未来を指す言葉を言揚げた。

「そのために、やることがちょっと多くない。」
「ま、面倒だがやらなくてはならない。それならばやるしかないだろう。」

ラピスの手を離して、髪をなでる。銀糸ともみえる髪は、コンディショナーによってキューティクルが保たれている。
天使の輪と呼称される、髪の反射する光の輪ができている。

離しては成らない。この手を、この世界から。


「ブラックサレナ稼動。中枢進入へ向かう。」 まどろみの意識に、覚悟が添えられる。この世界から去るでろう未来の夢想は、今はいらない。
ブラックサレナのスラスターよりエネルギーの奔流がでる。中枢にあるのは演算ユニット。


既に使用用途は決定している。ミスマルユリカと彼女の宿すIFSとコネクトした演算装置。
それらは人間としてではなく耐久度数を上げ、意識の単純化が行われている。


単純化によって、人間としての意識は既に失われている。「位置」と「座標」「伝達」のみの意識が発生するのみ。
「なんともまあ、行くところまで行ったな。」

動座博士の行ったことは、合理的を突き詰めた結果にある。
人間の体をした伝達装置。いつか見た闘争の時間にあった、人間も三人無作為に選出され、コネクトされている。
「既に去ったんだ、物理的に去っても良いだろうさ。」
FRX各機がサレナと同様にコロニー侵入の経路をとっている。


エステバリスを展開し、FRX単機となり内部隔壁が展開されるゲートへと侵入する。
追加ユニットであるFRXカスタムをまとったまま、ブラックサレナは翼を広げ、狭め、その巨躯をコロニーの胎内へ進めた。


「現状の確認を行う。各人、配置のまま音声のみで謹聴してほしい。」
アマテラス内部の火星の後継者各人に、サウンドオンリーで通信がなされる。
耳にしたイヤホンは昨今でも見られるもので、なんら怪訝を浮かべる職員は居ない。

畳八畳の空間にあって後継者の一団は終結し、中枢司令部の役割を行っていた。
本来行うか未決定であったプラン甲発動時に使う、単純ながら首脳が終結した一室だ。

「プラン発動の決定はいまだなされていない。各部において慰撫部隊のパワードスーツ部隊が配備されているため、
困難であるが各人配置を離れず決行時に備えよ。現状を維持し、敵の掌握を確実に行ってほしい。」
ウインドウ通信はなされない、ただ音声で行われる応答は、一様にして「了解」。

「閣下、現状においてはアズマ准将は固定砲台にて敵を迎撃中。ですが、相手の機動力によって回避されております。」
「単機で飛び込むに、このコロニーの弾幕は厚い。
プラン乙を発動する程に、ここを放棄しない理由は生まれないだろう。」

クサカベはウインドウに展開された戦場と、コロニー各地の制圧状況、
慰撫部隊とナデシコBの動向を見渡して一人うなずく。

抵抗たる行動を起こすときには、拠点が必要である。
兵糧や兵器などの備蓄と、人材が悠々と活動できる行動の拠点は、長期間の活動を考えて必要不可欠なものだった。

後継者であるクサカベが考えていたのは、拠点を協力者に頼るのではなく、自身で用意することだった。
火星極冠遺跡とヒサゴプラン。共に後継者とクリムゾングループによって建設された施設だ。

極冠遺跡もヒサゴプランの中枢として、イワトが建設されている。
拠点を展開するには、敵地へと向かうことを考えて場所の選出に困ること
が往々にしてあるのだが、今回は場所の制限はない。

よって、後継者はアマテラスで武装蜂起するプラン甲と、
イワトを占拠して長期活動を視野に入れた拠点とする、プラン乙を考えていた。
中枢メンバーにはこのことは既に伝えられ、下級組員も、
直接伝達はなされていないが、この二つの場所が自身の拠点となるのを知っていた。


「プランのどちらが発動されたとしても、発動する事態になれば我らは引けぬ状況にある。
天秤との協定は安住ではないが、相互理解をしつつ仮の住まいを提供することにあった。
ゆえに、他の反連合政府国への亡命もできぬ。」
故というが、天秤以外の国は彼らを条件付ですら補助するのが難しい状況にあるのだ。
だからこそ、逃げ場所はない。

クサカベの覚悟は、後継者全員の覚悟である。それぞれが各人の仕事を粛々と行う一室。

そこに、隔壁が開かれて人影が踊りでる。

「もう逃げ場はない。逃げるつもりもないのでしょうけど、現れる必要すらないですよ。」

一瞬の隙などもない威嚇体制をクサカベを含めた四人が作り出すが、
手に構えたサブマシンガンを向けた相手に、彼らは苦渋の表情を浮かべた。

部屋に侵入したのは、たった一人のパワードスーツを装備した人間だった。
いや、たった一人などと嘲笑してよい相手ではない。

火星慰撫部隊の主戦力は、エステバリスとFRXの機動兵器や、
パワードスーツやIFSを代表とする体質的資源である。

だが、一番に戦力となるのは思想の統制だった。
彼らが生まれ出る場所こそは実験場で、彼らを生み出したのは後継者たちだった。

そうして作り出されたパワードスーツ部隊で、特筆するのは遺伝子操作を行った優人部隊を超える、
電子機器の人間外の反射能力と運動性。装着型エステバリスとも揶揄される、人と機械が混血となった力だった。


「火星慰撫部隊が蜂、有栖川みこと少尉です。
まあ、慰撫部隊に所属する連中は佐官待遇なんで低いほうですけど。あなた方を拘束します。」

みことはスーツを着た上で、装備されている非致死電圧のスタンロッドを構える。
二人の男が後ろに庇い、一人が護衛体制を取るなかでクサカベは彼女に口を開く。

「抵抗は君たちからすれば無用なのだろう、だが、我々には成さねばならぬことがある。」
答えも、問答も必要ない。
スタンロッドを構えたみこと自体がブラフで、
開かれたままの隔壁から暴徒鎮圧要スタングレネードが投擲されて室内を光に変えた。

光の拡散によって、その場に居る人影はただ一人を残して倒れ臥した。
強烈な閃光によって、一時的な視覚の喪失はパワードスーツをまとったみことを残した人間全てに牙を剥いた。
「ま、こんなとこでいいでしょ。確保が一番でしたからね。」

パワードスーツ部隊である蜂がコロニー全域を制圧したのは、
アマテラスの外縁部にある窓から宇宙空間を監視するのを阻止するという意図があった。


アマテラス司令部からもまた、宇宙空間の観測ができるように成されているが、
司令部を制圧するわけにはいけないので、ウインドウを窓に展開し、
ヴァーチャルに行われている戦場をリアルタイムで再現し、映像を映し出している。

ユーチャリスの行っているハッキングはアマテラス中枢と司令部のみで、
あとはヴァーチャルである戦場を作り出すことに心血を注いで居る。
ハッキング自体は最初の制圧が終了すれば終わり、アイとサキの三人は戦場の再現に集中。


ラピスは実際に稼動している機体のオペレートとコロニーの操作。
「お嬢さまがたのおかげですかね、まったく無血に終わるのかも。」
「いや、どうかね。」
一人でごちて、一人でかえす。

みことはドアから入ってきた二人と共に、倒れ臥して抵抗しようとする男たちを手錠と縄で確保する。
「ともかく、我々のすべきことをする。」「そね。」
状況確認ウインドウを展開し、参照。

FRXとブラックサレナが遺跡の確保に向かい、隔壁を展開中。
ナデシコBが接岸し、こちらの制圧したクサカベを収容すべく隔壁を接続。

そして、仮想ヴァーチャルで行われている戦場では、現実世界とは異なるブラックサレナの抵抗する姿があった。

「ま、苦戦中ということで。」
実際に行われていない戦闘に関して、深く考える必要はない。

ただ、この状況を維持できる時間の残りは少ないのか、長いのかを把握できればいいのだ。

「残り時間はあまり少ない。いや、相手が蜂起してもらわないと。」
仮想現実のなかで、ボソンジャンプのボース反応が発生。
今まで敵に向かって砲門を向けた鶴羽陣形を取っていた艦隊の側面にジャンプアウトした。



「グラビティーブラスト発射。敵へ向かいバッタ変体を展開。」
「仮想シュミレーション順調、現在アマテラスは通常業務を遂行しています。」

ラピスの仮想シュミュレーション報告、アイの現状報告を受ける。
ユーチャリスはアマテラスからの距離をとって、離脱を開始している。

ナデシコが先ほどまで停泊していたポートに接岸し始めている姿を脇目に見て、
FRX各機が可変機構にて滞空して防衛圏を作り、ナデシコを含めた護衛をしている。


「結構。シュミュレーションにてアマテラスへ直接砲撃、施設のライフシステムに干渉してくれ。」
「蜂部隊、クサカベと幹部候補3名を確保したとのことです。ナデシコBポートへと向かっています。」
サキの報告を聞き、うなずく。
「了解した。」
アキトは艦長席に戻ることなく、二段フロアの上段中央にて腕を組み、事態を見守る。

グラビティーブラストの発射。バッタ編隊をともなって、ブラックサレナは中枢を破壊した区画のあった場所へと向かう。
コロニー側に提供するシュミュレーションとしては、最悪の部類になる。

中枢部分の完全破壊、コロニーの備蓄区画の断絶と流出。
これによってボソンジャンプという技術がなければ食料の補給は不可能となり、
事実上コロニーが維持できないという判断を下すしかない状況だ。

「さあ、お前たちの思惑は知っている。だが、こちらの思惑に乗ってもらおう。」